トヨタやソニーも過去に失敗 異業種の証券会社設立、成功のカギとは?古田拓也「今更聞けない金融ビジネスの基礎」(2/3 ページ)

» 2019年11月22日 10時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

証券事業への異業種参入、実は失敗例も多い

 実は、異業種の証券事業参入は1990年代末から00年代半ばにかけて度々みられた現象で、当時の大半の新規事業者は撤退を余儀なくされた。

 旧証券取引法(現、金融商品取引法)の98年改正で、証券会社が免許制から登録制で設立できるという規制緩和が実施された。これに伴い、それまで対面営業がメインであった証券業界にITなどを強みとする異業種からの参入が相次いだ。

 例えば、「SBI証券」は元々ソフトバンク資本であるし、「楽天証券」もその名の通り楽天による買収によって今の形となった。このような、いわゆるネット証券は、対面営業を省いた固定費の削減と安価な手数料、当時は目新しかったオンライン取引を競争力として参入し、既存事業者との差別化を図った。その結果、証券業界には「対面証券」と「ネット証券」という2つのカテゴリが生まれることなった。

 その陰で、証券業界の特殊性によって異業種の強みを発揮できず、失敗したネット証券が多かったこともまた事実だ。

 例えばソニーもその1つだ。ソニーといえばエレクトロニクスのみならず、金融分野でも非常に高い業績を上げている企業として有名だ。しかし、そんなソニーであっても、証券ビジネスを軌道に乗せることは難しかったようだ。ソニーバンク証券は07年に営業を開始したものの、世界金融危機やその後の薄商い相場によって営業赤字を出し、わずか5年でマネックスグループに買収された。

 そのほかにも、00年に営業を開始したトヨタファイナンシャルサービス証券株式会社も失敗している。同社もソニーバンク証券と同様に、世界金融危機のあおりを受けて営業開始から10年であえなく撤退し、東海東京ファイナンシャルグループに吸収合併されることとなった。伊藤忠の伊藤忠キャピタル証券も、12年に日本証券業協会から脱退するなど、例を挙げればきりがない状態だ。

 このように、金融ビジネスの中でも特に証券会社については、市場環境による不確実性の高さや、業界の特殊なシステムおよび規制がネックとなって失敗する可能性が高い。SBI証券や楽天証券といった成功例の背後には、数多くの大企業が撤退したという事実がある。生存者バイアスにとらわれて安易に参入すると、痛い目を見る可能性が高い業界なのだ。

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