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『¥マネーの虎』生みの親が明かす! 難攻不落の社長たちを口説き落とした【準備ノート】のススメ人気テレビプロデューサー・栗原甚の仕事哲学(1/2 ページ)

» 2019年11月26日 05時00分 公開
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 現役のプロデューサーが書いた新感覚のビジネス書『すごい準備』が話題を呼んでいる。その理由は、テレビ業界以外でも使える「ノウハウ」が満載だからだ。最近では、ラジオ出演をはじめ、有名大学・大手金融機関・出版社など異業種からのオファーを受けて特別講演をするなど、引っ張りだこの男がいる。

 2001年10月から04年3月まで日本テレビで放送された伝説の人気番組『¥マネーの虎」。一般人の志願者が新しいビジネスの事業計画をプレゼンし、“虎”と呼ばれる5人の社長に出資を求めるという内容で、企画の斬新さが人気を博した。マネー成立した志願者は、実際にお金を動かして事業を興し、成功した者も少なくない。番組には堀之内九一郎、高橋がなり、小林敬、加藤和也、川原ひろしといった強烈な個性を持つ社長たちが登場した。司会は俳優の吉田栄作、「ノーマネーでフィニッシュです」という決めせりふは一世を風靡した。

 放送から20年近く経(た)つ今なお、熱狂的なファンが絶えない。人気は国内にとどまらず、米国では『SHARK TANK』、英国では『Dragons'Den』として放送されるなど、世界35カ国以上にフォーマット販売され、 現在184の国と地域で放送されている。

 その『¥マネーの虎』の生みの親で、企画・総合演出・プロデュースをすべて担当したのが、日本テレビの演出・プロデューサーである栗原甚さんだ。

 注目すべきは先述した、各業界の異端児であり多忙を極める社長たちを、いかにしてキャスティングしたのか。「投資」には失敗すればお金が戻ってこないというリスクがあるが、いかにして“虎”たちを口説き落としたのか。栗原さんにその秘密を聞くと、困難な状況を救った【1冊のノート】の存在が浮かび上がってきた。世界的なヒットコンテンツ誕生の舞台裏に迫る。

phot 栗原 甚(くりはら・じん) 北海道札幌市出身。日本テレビ/演出・プロデューサー。「準備を制する者は、人生を制す」をモットーに、自ら考案した『すごい準備』(準備ノート、RPDサイクル、口説きの戦略図)という人生最強のメソッドを駆使して毎回、独創的かつ常識破りの企画で、視聴者を虜にする有名クリエイター。『さんま&SMAP』『伊東家の食卓』『ぐるナイ』『行列のできる法律相談所』『さんま御殿』など数多くのバラエティー番組を手掛け、最近では国民的ギャグ漫画『天才バカボン』を実写ドラマ化し話題を呼んだ。近著に『すごい準備 誰でもできるけど、誰もやっていない成功のコツ!』(アスコム)(撮影:山崎裕一)

深夜だからって、静かな番組を作る必要はない!

――伝説の人気番組『¥マネーの虎』誕生のきっかけは、どのようなものだったのでしょうか?

 企画募集されたときの条件は「深夜枠」で「低予算」だったんですよ。土曜の深夜0時50分放送という遅い枠でした。予算がないと有名なタレントは呼べないし、豪華なセットも作れない。そうなるとトーク番組しかありません。それなら、いっそのこと“タレント”の代わりに“一般人”を起用するトーク番組が作れないか……と考えました。

 一方トーク番組といっても、熱いものがやりたいと思ったんです。当時の自分と同じ30代の男性が見て面白いと思う企画、とにかく温度が高い番組を作りたいと思っていました。深夜だからって、静かな番組を作る必要はない……そう信じていました。

――「深夜の時間帯」かつ「低予算」というのは、かなり厳しい環境に思われます。 

 そうなんです。どんなに面白い企画でも、やはり「予算がない」という壁に直面すると、断念することがあります。でも、僕は発想を変えて「お金がないから、誰かお金を出してくれないかな。誰でもいいからスポンサーになってくれないかな……」って本気で考え始めたんですよ。理由は、あるエピソードを教えてもらったからなんです。

 映画監督のスティーブン・スピルバーグは、よく映画館にフラっと足を運ぶらしいんです。ある時、横に座っていた映画青年がスピルバーグに気づいて、自分が温(あたた)めていた映画の企画を熱くプレゼンしたそうです。すると、スピルバーグが「ぜひ、その映画を作ろう!」と言って、お金を出してくれたという逸話です。

 「お金はないけど、アイデアはある人」がお金持ちに大金を出してもらい、夢を叶(かな)えるっていいなと思いました。アメリカンドリームじゃなくて、ジャパニーズドリームみたいな。素晴らしい企画や才能はあるんだけど、運や縁、人脈がない人っているじゃないですか。そこから番組のアイデアが膨らんでいきました。

“虎”探しに活用した「RPDサイクル」と【準備ノート】

――『¥マネーの虎』に出演していた社長たちは、どのような基準で選んだのでしょうか?

 最初は、テレビでCMを流している大企業の社長に出てもらおうと思っていました。それこそソニーやトヨタ自動車などの一流企業ですね。でも、企画書を出しても全然返答が来ませんでした。300社ぐらい断られたんじゃないかな。なぜだろうと思い、いろいろと調べてみたら、あることに気づいたんです。「上場企業では株主の許可を取らずに、社長が自由に会社のお金を投資できない」という事実です。

 そこで方針を180度変えたんです。未上場企業で、ワンマン経営をしている社長を探し始めました。理想の“虎”は、会社の経営を1人で担い、決定権を持っている社長です。重要なのは、番組企画そのものに賛同してくれる社長を探すこと。とにかく社長は忙しい人ばかりですから、単刀直入に要点を伝えました。

 ちなみに、出演交渉の際に「ギャラはいくらですか? 交通費は出ますか? 宿泊費は出ますか?」などと聞かれた場合、僕は「今回の企画、社長には向いてませんね」と即答して、こちらからお断りさせていただきました。そもそも『¥マネーの虎』は、お金を投資する番組です。ギャラがもらえるかを聞いてくる社長はスケールが小さ過ぎるので、この企画にはまったく合いません(笑)。

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――しかし、ノーギャラで出演してくれる社長を探すのは、相当大変だったのではないでしょうか?

 はい、もし番組を見てもらえれば「この番組に出演したい!」と思うかもしれません。でも、まだ番組が放送されてないので、なかなか理解してもらえない。だから番組の立ち上げ時期が、一番苦労しました。社長に、僕が頭の中でイメージしているものを、いかにうまく伝えるかがポイントでした。

 あと、絶対に諦めないという気持ちも大切でしたね。番組がヒットしたとき、ある記者さんに「もしかしたら世界中を探せば、栗原さん以外にも同じような投資企画を考えた人がいたかもしれませんね。でも、最後まで諦めずに番組を実現させようと動いた人は、栗原さんだけだったんですよ」と褒められたことがあります。確かに、そうかもしれません。僕は、この番組を立ち上げるために3カ月以上、毎日毎日出演交渉をしていました。普通の人なら、1カ月くらいで諦めていると思います(笑)。

――交渉に向けては、どんな【準備】をしたんですか?

 よくビジネスでは「計画P」「実行D」「評価C」「改善A」というPDCAサイクルが大事だと言われます。でも僕は、交渉においては「計画P」の前に、入念な準備(Ready)が必要だと思っているんです。なぜなら重要な交渉は、一度失敗してしまうと、もう二度とチャンスが回ってきません。そう考えると、交渉では9割が「準備R」と「計画P」。残り1割が「実行D」。つまりRPDサイクルが、成功のカギだと考えています。

 僕は交渉を成功させるために【1冊のノート】に交渉相手(社長)の情報と自分の情報、そして「問題点」と「解決策」を徹底的に書き出しました。ポイントは、見開き2ページにまとめること。実際の交渉では、この【準備ノート】が大いに役立ったのです。相手に何をアピールすれば良いか、どんな懸念点があるのか、視覚的に整理された状態で臨むので、交渉という緊張する場面でも「突破口」を見つけやすかったからです。

 つまり「相手をいかにして口説けばいいのか」が一目瞭然になるのが【口説きの戦略図】です。当初は箇条書きにしたノートを見ると、社長にとって「デメリット」が圧倒的に多かったのですが、「メリット」に転換させてプレゼンし、出演交渉ができたので、難攻不落の社長たちを次々と口説くことに成功したんです。

phot 栗原さんが提案する「RPDサイクル」(『すごい準備 誰でもできるけど、誰もやっていない成功のコツ!』より)
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