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自身を破壊し続けること――さくらインターネットの田中社長が語る「変化に強い開発組織」の条件ソフトウェア・ファーストな組織へ(2/3 ページ)

» 2019年11月29日 08時00分 公開
[伊藤健吾ITmedia]
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カギを握る「最初の1人」を社内で育てる

及川 私もいろんなところで「まずエンジニアを雇っちゃいましょう」と話しているのですが、そうすると「ある開発案件が終わったら、その後エンジニアを雇用し続けるだけの仕事があるか分からない」などと懸念する声も出てきます。事業のサービス化が叫ばれている今の時代、そんな状態にはならないし、もしなってしまったらエンジニアの雇用の心配している状況ではなく、あなたの企業の存続そのものが危ういと繰り返しお伝えしてきました。

 ただしもう1つ、エンジニア採用の課題もあって。特に最初の1人を採用するときは採用基準が分からないし、面接して採用可否を判断する人もいないわけです。さらに、エンジニアを採用した後に開発組織をマネジメントする人もいない。この部分に不安を持っている企業に、田中さんはどうアドバイスしていますか?

田中 今いるIT担当者の方をもっと褒めてあげましょう、と言っています(笑)。一応、これにはちゃんとした理屈があるんです。

 システム開発を内製化しているかどうかは別として、ある程度の規模の企業なら、IT担当者がゼロ人というところは非常に少ない。1人でもIT担当者がいるなら、その社員にもっと光があたるようにしてみましょうと。

 仕事の中心はベンダーコントロールで、いわゆる情報システム部門の役割だったとしても、裏方として扱ってはダメです。経営者自らが「IT担当者は会社を支える素晴らしい仕事をしている」と伝え続けて、活躍を期待しているんだと示さなければなりません。

 そうすると、次第にIT担当者が自信を持つようになります。そこで経営者は「社内でITの価値をもっと高めたい」とビジョンを語り、「そのためにはあなたの力が必要だ」とさらに期待を伝えるのです。こういうやりとりを重ねていくと、自分自身でも裏方だと思っていたかもしれないIT担当者が、能動的に動くようになってくれます。開発の内製化やそれに伴うエンジニア採用でも、リーダーシップを発揮してくれるようになるわけです。

及川 先ほど話した「最初の1人」を、社内にいる人の中から生み出すわけですね。

田中 はい。シンプルなやり方ですが、こうやって開発組織を拡充してうまく行っているところは、私の知り合いがやっている会社の中でもたくさんあります。

及川 経営トップが態度を変えて、IT担当者に期待をかけ続ければ、エンジニア採用の方法論や開発組織ならではのマネジメント方法なども後から勉強してくれると?

田中 全員がそうなるとは思いません。ただ、社内に開発組織を作っていくノウハウがないと嘆いているよりは生産的です。それに、会社側がエンジニア採用のプロセスや人事・評価制度を整えたところで、運用する人のマインドが変わらなければ形骸化してしまいます。

 これは私自身への自戒でもあるんですね。起業したてのころは、社員を信頼して任せるという考えがあまりなくて。「エンジニアとして自分と同じだけ仕事をしてくれる人がいればいい」と思っていました。その後いろんな経験をして、5年くらい前から経営者同士でメンタリングをするようになってから、徐々に考えが変わっていきました。

 メンタリングのお相手に「社員のことを考えたらどうですか?」などと話しているうちに、じゃあ自分はどうなんだと。それでもっと社員に気を配るよう意識して行動を変えたら、離職率は劇的に下がり、1人当たりの生産性も上がりました。以前は離職率が20%近くあったのが、2018年度は3.76%に減っています。

及川 社員に気を配るというのは、具体的に何を変えたんですか?

田中 まず、「社員を信頼する」ですね。

伊藤 マインド面なんですね。

田中 はい。一言です。当社の人事制度はシンプルに「社員を信頼する」ですから。もちろん、この考えをベースに制度も変えました。例えば、「勤務地自由」を打ち出して、リモートワークしやすいように制度や環境を整備しています。兼業・副業を全面解禁して自由に働けるようにもしました。

 ただし、これらの取り組みに並行して、社員にはよく「当社で仕事をする中で、いつでも転職できるようなスキルや経験を身に付けてください」と伝えています。転職できないということは、市場価値が低いということになるので、当社も困るという意味です。

 一方で会社としては、転職すればもっと良い給与をもらえるレベルの人たちにも残ってもらえるよう、努力し続ける必要があります。だからこそ、会社が手掛ける事業領域やソフトウェア開発のやり方を常にチャレンジングなものにして、兼業・副業も解禁して社員がキャリアアップしやすい環境を整えなければなりません。こうやって、会社と社員がお互いに信頼し合って働けるような仕組みにしたら、離職率が下がったんです。

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