大きく改革したのが、紙資料の大幅な削減だ。なぜ紙資料だったのか。実は「チェンジワーキング」を進める以前、提案書や契約書をつくる事務作業に多くの時間がとられ、営業担当者の顧客対面時間は1日のわずか24%。そこで過去の提案書は電子化し、全文検索機能付きのドキュメント共有システムを導入した。これにより成約に結びついた提案書などを共有することで事務時間が短縮。書類作成などの個人業務の時間は3割減り、顧客対面時間は1.5倍に増えた。
ここで重要なのはただ漠然と紙を減らしたわけではないことだ。同社ではその施策をペーパーレスではなく「ペーパーストックレス」という言い方をする。「紙で印刷するものはもちろんする。けど(収納スペースは限られているので)保管できない。受け取った紙情報が必要なものであればスキャンしてデータで保存し、そうでないものはすぐに捨てる」(橋本氏)。
同社の個人の保管スペースは50cm2のロッカーのみ。しかも半期ごとに場所替えが強制的にあるため、必然的に保存できる量には限りがある。この施策により、移転前は1人あたりの書簡保管量が6.1ファイルメーター(文書量の単位。おおよそA4サイズの用紙を1メートル積み上げた量を1ファイルメーターという)だったが、移転後は契約書なども含めて1.6ファイルメーターに大幅縮小。保管文書のデジタル化、使わない紙資料の削減によって収納庫の面積は移転前の80%減、賃料に換算すると1800万円削減の効果があったという。
大きな成果があったものの、実は「抵抗勢力」も多かった。その多くを占めていたのは意外にも20〜30代の若手。「これ以上仕事を増やしてくれるな。せっかく覚えた仕事を変えるのか」という声があったという。
そこでスキャナー10台、ファイルサーバ2台を導入したが、ふたをあけてみるとほとんど使われることはなかった。保管していた書類は「結局思い出になっているだけ」(矢野氏)。逆に50代の社員の方が変えていかなければいけない意識のほうが強かった。「当時リーマンショックのあとで、今のままのやり方ではだめだという危機感があったのだろう」と振り返る。
電子化した文書の活用についても思わぬ「誤算」があった。前述した通り、全文検索ができるシステムを導入してデータを1カ所にまとめ、運用の仕方は個人に任せた。ところが、保存量が増えるにしたがい検索すると何千というデータが出てくることになり、仕事に必要なデータを探す手間が増えてしまい、逆にシステムが使われなくなってしまった。
「ペーパーレスといっても、データがたまってしまうと書類と同じで、書庫や机の引き出しにしまいこんでしまう。そして実際には活用しなくなる。これはデータでも同じでした」(矢野氏)。その反省を生かし現在は運用管理者を置き、古いデータを更新するなど適宜情報を入れ替えることによって業務効率を高めている。
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