今回、証券業界が政府に要望したもう1つの重要論点で、惜しくも導入が見送られたものが、「デリバティブ取引等を金融商品にかかる損益通算の範囲に含めるとともに、特定口座での取り扱いを可能とすること」である。
これは、身近な例を挙げるとすると、株取引で利益が出たときに、FXで損失が出ていたら両者の損益を通算して税金を算出できるようにするというものだ。現在の制度では、株取引で1000万円の利益が出た場合、FX口座で1000万円の損失が出ていたとしても、203万円程度が株式にかかる税金で引かれてしまう。
もし、デリバティブ取引と株式等の損益通算が認められれば、株取引の利益1000万円とFXの損失1000万円が相殺され、税金はかからない計算となる。
これは、長年「金融所得課税一体化」というテーマで語られてきた分野だが、今回の税制改正では「長期検討事項」として整理された。この内容は税制改正大綱本文においても言及されており、「多様なスキームによる意図的な租税回避行為」の対策がネックである旨記載されている。導入自体に関しては「投資家が多様な金融商品に投資しやすい環境を整備」することを検討しており、前向きな検討姿勢がうかがえる。
このように、金融商品をめぐる税制は1年で大きく変化する分野であり、毎年の改正は見逃せない。新NISAの施行自体は24年からと時間はあくものの、制度の移行を見越すことが重要だ。特に一般NISAにしか興味がない投資家においても、つみたてNISAの概要を押さえておかなかったり、ハイリスクな銘柄でポートフォリオを組んでいたりする場合は新NISAの非課税効果を最大限発揮できなくなる。
金融庁が9月にまとめたNISA・ジュニアNISAの利用状況調査によれば、NISA口座は合計で1308万9411口座だった。NISA口座は1人1口座までしか開設できないため、全人口の1割以上が利用していることになる。NISA口座保有者も、これから口座開設を検討している者も今回の内容は十分に理解しておく必要があるだろう。
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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