「ヤクザの集団」「ゴロツキ」「反対する人がいたら、県議会議員の資格はない」――。
静岡県の川勝平太知事の“口撃”は止まらない。川勝知事は12月19日、JR東静岡駅前に計画している図書館などが整備される予定のいわゆるハコモノ施設「文化力の拠点」について、来年度予算を認めない県議会の自民党系の最大会派「自民改革会議」を、こう侮辱した。
翌20日、川勝知事は、自民党県議団の控室に出向いて、「あの発言は、私が言ってもいないことをマスコミが書いた」と責任転嫁。これには地元マスコミからも反発を受けて、24日の知事定例会見は荒れ、「発言は撤回しない」と発言の事実を認めた。
ところが、25日には一転して自らの発言の非を認め、「衷心より恥じており、猛省をしています」と謝罪会見をした。先月「嘘(うそ)つきは泥棒の始まり」と三重県知事に暴言を吐いた川勝知事だが、見事にブーメランが知事自身に直撃した格好だ。
川勝知事と、自民党系県議団・保守系無所属議員の間では、リニア中央新幹線を巡る問題が尾を引いている。
南アルプストンネル(静岡工区)を巡って、静岡県の川勝平太知事が着工に「待った」をかけてから、すでに2年以上が経過した。JR東海は、2019年内の着工が難しくなり、2027年予定の品川・名古屋間の開業は延期される可能性が高くなった。
国土交通省の水嶋智鉄道局長は、12月14日、JR東海に対して、「(大井川流域市町に)説明責任を果たすことが求められる」と静岡新聞の取材で話している。
しかし、JR東海の幹部が流域市町に説明に出向こうと打診をしても、市町側が静岡県知事の顔色をうかがいながら、JR東海の面会を拒絶している実態はあまり知られていない。
このトンネルの着工については、大井川流域の利水者11団体とJR東海、静岡県の間で話し合いがなされて、2017年9月、県の仲介によって合意をして協定文書を作成するところまで進んでいた。それを、川勝知事が“ちゃぶ台返し”をしたと12月の静岡県議会でも取り上げられたのだ。
川勝知事がトンネル着工を拒むのは、大井川の源流部の地下にトンネルを掘ることによって大井川が減水し、河川の環境が悪化しかねない、というのが表向きの理由だ。
「環境」を盾にして、「(減水する毎秒2tの水量は)静岡県民62万人の命の水である」「(トンネル湧水を)一滴たりとも失うことがあってはならない」という川勝知事の物言いは、一見すると静岡県民にとっては“正義の味方”のようにも見えるだろう。
ところが、「常時、毎秒2tの水が失われる」という明確な根拠は、どこにも出ていない。かつて、JR東海が記した環境影響評価準備書には、「覆工コンクリート等がない条件で、最大で毎秒2t減水と予測」とある。現代のトンネル掘削の現場では、先行ボーリング(先行探査)をして地層を確認しながら掘削し、圧力が強くなるとすぐに地層を固めたり、覆工コンクリートのような防水工事を実施したりするので、大量の出水は考えにくい。
それに、知事の言う「一滴の水たりとも」という表現は、現実的な指摘ではない。川勝知事が、自らはできないことを他人に強要して、JRだけを水問題でつるし上げるのは、“官の民いじめ”と言われかねないだろう。
静岡県内では、リニア新幹線の事業者であるJR東海を、“環境破壊の企業”かのように捉える人が多くいる。しかし、このトンネル工事に、静岡県知事が「待った」をかけ続けなければならないような問題は、同じく南アルプスを通る長野県や山梨県をはじめ他県では一切起きていない。
それは川勝知事がJR東海に対して、「無礼千万」「頭に来た」「誠意がない」「静岡県民がリニア新幹線の線路に座り込む」などと、知事らしからぬ言葉でレッテル貼りや煽動(せんどう)をし、地元メディアが報じたこれらの言葉によって刷り込みをされた県民が多かったからかもしれない。
その静岡県で、12月以降、川勝知事のこれまでのJR東海への対応について、疑問を投げかけるような報道が相次いだ。
静岡新聞は、リニア問題に関しては、川勝知事の見解を無批判に報道してきた。その静岡新聞の読者欄(12月5日付け)に、「リニア解決の着地点を探して」という投稿が掲載された。「知事のけんか腰の交渉も気になる」「(知事は)リニア自体に反対ではないのだから、解決に向けて着地点を探ってほしい」という県民の意見を紹介したのである。
この投稿は、川勝知事が、JR東海との協議を仲介した国交省幹部に対して「中途半端な理解の人」「器に欠ける」と批判し、愛知県の大村秀章知事への批判に続けて、三重県の鈴木英敬(えいけい)知事を、「嘘(うそ)つきは泥棒の始まり」と公式の場で侮辱した発言を問題にしている。
また、同月11日放映の静岡朝日テレビの地域情報番組「夕方情報ワイド とびっきり!しずおか」でも、「リニア県議会、命の水論戦 『知事は劇場型』『JRイジメ』」というタイトルでも、川勝知事のリニア対応について、県議複数による批判的な質問を取り上げた。番組中、ゲスト出演した岸博幸・慶應義塾大学大学院教授(元経産省官僚)は、ソフトな言い回しをしながら、問題を鋭く指摘した。
「知事は(リニアへの対応で)、静岡県民のためというよりは、次の知事選を考えた行動をしている」
大井川の田代ダムから山梨県側に発電用に流出させている水が、リニア新幹線のトンネルで予想される減水の2.5倍もあるのに、リニア新幹線だけを目の敵にするのは、「ちょっと無理がある」(関連記事リニアを阻む静岡県が知られたくない「田代ダム」の不都合な真実を参照)「知事が騒ぐと、全国から『静岡県って何?』と見られる」などの発言があった。
静岡県知事が主導するリニア批判は、ちょっとおかしいと、地元メディアが報じ始めたのだ。
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