リニアを止める静岡県 川勝知事「ヤクザ・ゴロツキ」暴言問題の背景に「ハコモノ行政」検証・リニア静岡問題(4/4 ページ)

» 2019年12月27日 05時00分 公開
[河崎貴一ITmedia]
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「県民の命の水」という“口実”

 静岡県議会(定数69)の構成は、勢力順に、自民改革会議(39)、ふじのくに県民クラブ(19)、公明党静岡県議団(5)、日本共産党(1)、無所属(4)となっている。ところが、県政与党は、第二党の旧民主党系会派「ふじのくに県民クラブ」で、川勝知事も旧民主党や連合などの支援によって当選した。

 県議会議員の半数以上を占める自民党系「自民改革会議」や保守勢力は、12月の県議会やその後の常任委員会でも、川勝県政を批判する勢いを強めてきた。その中でも、川勝知事の政治方針に鋭い視線を浴びせているのが、桜井勝郎議員(保守系無所属)だ。

 桜井議員は、「リニア中央新幹線には、賛成でも反対でもない」という立場を取る。ただし、「リニア新幹線を口実に、川勝知事が、間違いやうそによって静岡県民をミスリードするのを看過できない」と本人は言う。

phot 桜井県議の質問を聞く川勝知事

 本会議後に、桜井議員は取材に応じた。

 「川勝知事は、私の質問に対する答弁で、田代ダムから山梨県に放流されている毎秒4.99tの水については、『筋違いの話』と一考だにしませんでした。しかし、私が県河川局に確認したところ、『東電の水利権は一気には取り戻せないが、時間をかければ少しずつ取り戻す事は可能』と言っています。そのことからも、川勝知事は、『県民の命の水』というのは口実で、“JR東海イジメ”のためにトンネル工事を着工させないのは明らかです」

 そして、トンネルの湧水について、知事とは異なる見解を示した。

phot 桜井勝郎静岡県議

 「知事は、減水の心配ばかりしています。ところが、リニア新幹線のトンネル工事に伴う湧水は、山梨県や長野県側に流れていた地下水だったかもしれません。そうであるならば、JR東海が静岡県の求めに応じて『湧水の全量を戻す』ようになれば、大井川河口部では、地下水を含めた水量は逆に増えることも考えられます。

 知事は、そんなに水の事が心配で、JR東海の調査報告が不十分で信用できないのなら、静岡県は地下水について独自に調査すべきだと思います。静岡県こそ、科学的根拠を示すべきではないでしょうか」

 川勝知事は「コンクリートから人へ」というスローガンを掲げていた民主党(当時)から支援を受けていたこともあり、就任当初は「ハコモノをゼロベースで見直す」と怪気炎を上げていた。だが、就任後の10年間を振り返ると、富士山世界遺産センター、静岡空港ターミナルビル、茶の都ミュージアム、日本平夢テラスなど、見直しどころかむしろ「ハコモノ」を積極的に整備してきたと報じられている。

 冒頭で触れた「嘘(うそ)つきブーメラン事案」は、東静岡駅前に整備予定のハコモノに反対する県議会議員らに対して「ヤクザ、ゴロツキ」などと発言したものだ。リニアについても、前回の連載「静岡県知事の「リニア妨害」 県内からも不満噴出の衝撃【後編」で指摘した通り、これまでの知事の言動を検証すると、「水と環境」を取引材料にして、「代償措置」として、JR東海に東海道新幹線の富士山静岡空港新駅を造らせようとする“本音”が垣間見える。

 新幹線の駅は分かりやすい「ハコモノ」だ。今回のリニア中央新幹線に川勝知事が「待った」をかけた騒動は、知事の「ハコモノ」に対する異常な執着心が世の中を掻き乱す言動の背景にある、と言っては言い過ぎだろうか。

著者プロフィール

河崎貴一(かわさき たかかず)

サイエンスライター、ジャーナリスト。日本文藝家協会、日本ペンクラブ会員。科学、医学、歴史、ネット、PC、食のルポルタージュを多く執筆。著書に『インターネット犯罪』『日本のすごい食材』(ともに文春新書)、パソコン・ガイドブック『とことん使いこなそう!』シリーズほか多数。


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