クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向
連載
» 2020年01月14日 07時20分 公開

池田直渡「週刊モータージャーナル」:ヤリスGR-FOURとスポーツドライビングの未来(後編) (5/5)

[池田直渡,ITmedia]
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 個人としての見解だが、時代背景を考えれば、ぶっ飛ばすのはもはや非難を免れないと思う。しかし、非難を覚悟の上でやる人を絶滅させることは難しいだろう。一方であまりに厳密な形式的遵法主義も現実性がないと考えている。世の中の全てのことが白黒付けられるわけではないと思うのだ。そこはコモンセンスの問題だと思う。

 いずれにせよ、ルールを絶対正義とする一派と、捕まらなければ何をしてもいいとする一派を、左右の両極端に置く対立は、やがて自動車メーカーにものしかかってくるはずだ。凄い性能のクルマを売って、ぶっ飛ばすかどうかはユーザー任せというスタンスでは、やって行かれなくなるだろう。問題の本質は、クルマに乗って楽しいという気持ちを、社会とどう折り合わせるかということだと思う。

 ベテランドライバーならご存じの通り、クルマをコントロールする楽しさは必ずしも速度に依存しない。法定速度で走っていても、本当にクルマの動きを美しく制御し、前後左右の加速度を線形につなげようと思えば、それは相当に繊細で難しく、その分楽しい。

 実はドライバーにとっては、やっていることは限界的ドリフト走行と同じことなのだ。変な例えかもしれないが、そろばんの上級者が、現物のそろばんなしでも、指で玉を弾くエアそろばんで計算ができてしまうのに近い。だから誰に非難されることもない走り方で公道を走っても十分に楽しめるのだ。

 しかしそういう枯れた境地に達するためには「ぶっ飛ばす」経験がやはり必要だ。GRは今、さまざまな体験イベントを通じて、合法的にぶっ飛ばせる場を用意して、運転スキル向上のための啓蒙活動を始めている。

 今更書くのも恥ずかしいが、運転技術は高いに越したことはない。何かの不運で、突然厳しい状況を迎えることは現実にある。一例として高速道路で突然逆走車が来た時、時速100キロとか、区間によっては120キロからの緊急回避、つまり限界的なクルマのコントロールができるかどうかは生死を分けることになる。

 だから運転のスキルアップはできる場があった方がいいし、そういう時に、操作にきちんと反応するクルマ、つまり良い道具があるかどうかは、技術の習熟速度を変える。ではそういう場所は現実にあるのだろうか? 「GR ドライビングエクスペリエンス」で検索すると各種メニューが出てくるが、 GRは今、各地のサーキットなどで、ドライビングレッスンやGRのクルマに乗れる体験を広げる活動を行っている。

 実は日本には各地にミニサーキットがあるが、これらの経営は極めて厳しい状態にある。こうしたサーキットの経営援助の意味合いも込めて、GR本隊や、各地のGRガレージなどがサポートしながら、運転のスキルアップトレーニングメニューを設定して行っている。合わせて、自動車に関する口コミ情報サイトの「みんカラ」と協力して、全国各地のこうしたミニサーキットのイベントの見える化を進めているのだ。

 こうして全体を俯瞰してみると、クルマを作って売るということは実に多岐に及ぶ活動が必要だ。GRというブランドによって、今またその活動の範囲が広がろうとしている。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。


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