会社が黒字で、体力があるときだからこそ、年功序列から実力主義の構造改革を進められるとも思えるが、「このタイミングでの実施」という側面からみれば、企業側の苦しい本音もうかがえる。
図表は、内閣府が公表している「景気ウォッチャー調査」の時系列推移を表したものだ。この指数が50ポイントであれば、企業の景況感は横ばいで、それを下回ると不景気であるとされる。推移をみると、18年頃に50ポイント超えを果たして以降は、一転して下げ基調となっている。
特に、消費税増税による駆け込み需要の反動減が著しかった。その結果、19年10月にはアベノミクス始動以来の最低値である36.7ポイントを記録し、最新値でも40ポイントを下回っている状況だ。
財務省が先月公表した、19年第2四半期の法人企業統計をみても、設備投資が順調である裏で、売上高は伸び悩みの様相を示している。企業の売上高は、製造業、非製造業ともに16年第2四半期以来の減収となったのだ。
そもそも経営戦略とは、将来を見据えた会社のあるべき姿を定義する計画である。たとえいまは順調であると市場が評価していても、経営層は近い将来に苦境が訪れると考えているのかもしれない。その苦境に先手を打つ形で講じた対策が「黒字リストラ」なのではないだろうか。
売上高は商品が売れなければ成長しないが、商品が売れなくても利益は成長させることができる。
例えば、年収800万円の45歳の社員を1000人リストラすると考える。社員の管理コストを加味すると、社員1人にかかるコストは、年収の2倍程度、1600万円が相場だ。これを単純計算すると、定年までの20年で1人あたり3億2000万円のコストカットとなる。1000人なら3200億円の利益押し上げ要因だ。この規模であれば、ここから割増退職金を支給したとしても決して無視できない経営効果が期待できるだろう。
このように、黒字リストラには「簡単に成果が出る」という側面もある。ゼロから3200億円もの利益を生み出す事業開発は、長い時間がかかるだけでなく、不確実性も高い。一方で、3200億円分の人件費カットは、やることが単純で成果もすぐに出てくる。
しかし、リストラは収益機会がないことの裏返しであり、中長期的に収益を生み続ける施策ではない。このように考えると、黒字リストラ機運の高まりは、実力主義への移行という文脈だけでなく、日本企業の先細りを示唆するシグナルという文脈でも検討する必要があるといえるだろう。
中央大学法学部卒業後、Finatextに入社し、グループ証券会社スマートプラスの設立やアプリケーションの企画開発を行った。現在はFinatextのサービスディレクターとして勤務し、法人向けのサービス企画を行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。
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