企業の「黒字リストラ」が増加している。
東京商工リサーチによれば、2019年にリストラを実施した上場企業は27社に増加し、その人数は1万342人と、6年ぶりに1万人を超えた。
その中には、ジャパンディスプレイや東芝のように「業績不振」を理由としたリストラも多い。しかし、今回注目すべきは、「黒字リストラ」事例の増加だ。業績が好調にも関わらず、早期・希望退職を募った上場企業は、リストラ実施企業のうち、実に34.4%にものぼった。
アステラス製薬やエーザイ、カシオ計算機といった、業績が一見好調とみられる大企業も、19年に黒字リストラに踏み切った。
業績が好調な中でのリストラといえば、20世紀末のゼネラル・エレクトリック(GE)CEO、ジャック・ウェルチ氏の経営手法が思い出される。
同氏は、81年に46歳でCEOの座に就いてから、「選択と集中」という今では有名な経営論を編み出し、これにより事業を立て直した。同氏の在任期間であった20年もの間、GEは一度も減収や減益にならなかった。その功績もあり、99年にはフォーチュン誌の「20世紀最高の経営者」に選ばれた「経営者のレジェンド」ともいうべき存在だ。
一方で、ウェルチ氏は、そのシビアな経営手法から、度々中性子(ニュートロン)爆弾に例えられた。彼は、当時の全社員の約25%に相当する、10万人規模の従業員リストラを断行したことがきっかけで、「ニュートロン・ジャック」という異名を持った。
中性子爆弾は、建物を残したまま、中にいる人間を死に至らせる核兵器だ。ウェルチ氏の経営手法は、大規模なリストラによって会社という建物を守り、中にいる従業員は切り捨てる「中性子爆弾のようなもの」であるという批判の声も根強かったのだ。
当時のウェルチ氏が断行したニュートロン経営だが、実は日本における黒字リストラも、構造としては“ニュートロン”的であるといっても差し支えないだろう。
ウェルチ氏は、従業員のうち、下位10%を解雇する「10%ルール」を敷いた一方で、優秀な社員に対する報酬を手厚くするといった人事戦略をとっていた。この点も、昨今の大手企業がとっている戦略と合致する。
例えば、18年にはNECが3000人ほどの早期退職者を募集するかたわらで、新卒に年収1000万円をオファーすることを発表した。また、19年には富士通が45歳以上の社員から早期退職を募る一方で、AI人材には最大4000万円の年収をオファーすることを発表するなど、多くの企業が従業員の待遇に傾斜を設けつつあることが分かる。
確かに今のGEに「10%ルール」制度は存在しないが、かつての膿(うみ)を出し切ったGEと違い、日本企業はこれまで大規模なリストラを行っていない。そのため、日本が今後もGEと似た戦略をとると考えれば、パフォーマンスによる足切り制度の導入や、新株予約権の付与といった人事制度の導入も決して遠い未来の話ではなくなるだろう。
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