5Gは健康に悪影響を及ぼす? 歓迎ムードの裏で広がる懸念世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

» 2020年01月30日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
前のページへ 1|2|3|4       

「健康被害はない」という主張が優勢か

 過去を振り返ると、5Gより前にも、1G〜4Gと新しい通信システムが登場するたびに健康被害を主張する動きがあった。

 欧州委員会(EC)や米連邦通信委員会(FCC)も、3Gや4Gの導入では環境に対して大きな影響はなかったとの立場にある。18年の米国家毒性プログラム(NTP)の調査では、2Gや3Gでは、マウスの実験で、わずかながら腫瘍が増えたとの報告があるという。ただこの実験では、国の定める電磁波被ばくの制限から4倍となる電磁波をマウスに照射した場合に、雄のマウスのみ、わずかながらの影響が出たという結果だった。結局、そんなに危険でないではないか、との声を後押しすることになった。

 既に述べた通り、WHOは、電磁波の影響は明確には確認できないというスタンスを取っている。頭痛や吐き気などを訴える人がいるという事実もあるにはあるが、WHOではその因果関係は証明できないとしている。さらに、電磁波によるがん増加も認められないとの立場だ。

 さらに言うと、オランダ、スウェーデン、フィンランド、英国、デンマーク、フランスで29万人に対して5年ごとに行っている学者たちの調査「COSMOS」でも、電磁波を出す携帯電話の利用による健康被害への影響は認められていない。

 こう見ると、どうも健康被害はないという主張が優勢のようである。

 そもそも日本ではそんな懸念すら話題にならない。とにかく、国を挙げて五輪に向けて突っ走っており、もはやそれどころではない。

 近い将来、日本をはじめ多くの国で普及することになる5G。健康被害を訴える科学者たちの戦いは始まったばかり、ということだろう。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


お知らせ

新刊『世界のスパイから喰いモノにされる日本 MI6、CIAの厳秘インテリジェンス』(講談社+α新書)が1月21日に発売されました!

 イラン事変、ゴーン騒動、ヤバすぎる世界情勢の中、米英中露韓が仕掛ける東アジア諜報戦線の実態を徹底取材。

 『007』で知られるMI6の元スパイをはじめ世界のインテリジェンス関係者への取材で解き明かす、東京五輪から日本の日常生活まで脅かすさまざまなリスク。このままでは日本は取り残されてしまう――。

 デジタル化やネットワーク化がさらに進んでいき、ますます国境の概念が希薄になる世界では、国家意識が高まり、独自のインテリジェンスが今以上に必要になるだろう。本書では、そんな未来に向けて日本が進むべき道について考察する。

前のページへ 1|2|3|4       

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.