仮想通貨送金に個人情報要求 FATFが求めるトラベルルールの課題

» 2020年01月31日 08時00分 公開
[斎藤健二ITmedia]

 2019年6月、マネーロンダリング対策を推進する政府間機関FATF(金融活動作業部会)は仮想通貨に関する勧告を公開した。この中の1つが、送金者と受取人の情報を、それぞれの仮想通貨交換業者で交換する、いわゆるトラベルルールだ。しかしプライバシーの問題や技術的な難易度もあり、簡単には対応が難しい。

 ブロックチェーン解析を得意とするレグテック(規制対応技術)スタートアップのBassetは、仮想通貨のトラベルルールについて、課題および解決方針を技術観点から検討したディスカッションペーパーを公開した。

難易度の高い、プライベートウォレット対応

 そもそもトラベルルールは、マネーロンダリングを防ぐために設けられた。疑わしい取引を見つけ出すためには、送金の依頼人、受取人の情報の取得と交換が不可欠だという考え方だ。銀行送金においては、すでに一般的。しかし、仮想通貨においては一筋縄ではいかない。

 FATFの勧告では、依頼人および受取人について、名前、口座番号、住所、顧客ID、生年月日、出生地などの情報をやりとりするよう求めている。しかし、仮想通貨は取引所を介さずともプライベートウォレットを通じて送金ができてしまう。これがトラベルルールへの対応を難しくしている。

 勧告では、プライベートウォレットへの出金については依頼人情報を送信する必要はないが、プライベートウォレットから入金を受ける際には依頼人の情報を申告させるとしている。

 しかし技術的にはこれらの実現はなかなか難しい。「トラベルルール対応の中で特に難しい」(Basset)。送金先のアドレスが取引所なのかプライベートウォレットなのかは、容易に判断がつかないからだ。実際には、ブロックチェーンを解析したり、各取引所同士が連携し合うことで実現を目指すことになると、Bassetでは分析している。

20年6月までに対応できるか

 FATF勧告は、公開から12カ月後の20年6月に審査が行われ対応が評価される。一般社団法人日本仮想通貨交換業協会(JVCEA)でも、各取引所はスタディグループを作り対応を検討しているという。そもそも勧告に対するパブリックコメントでは、「開発運用の観点からコストが非常に高い」「プライバシーの侵害につながりかねない」といった批判が出ていたが、FATFはマネーロンダリング対策上の利益が優先されるという判断を行った。

 Bassetのペーパーでは、プライベートウォレットへの送金可能性を考慮すると、トラベルルールを守る、最も簡単で確実な方法の1つは、信頼関係のある取引所へしか送金を受け付けない方法だとしている。つまりプライベートウォレットへの送金をできなくしたり、海外の取引所への送金を受け付けなくしたりする方法だ。

 しかし、これは利用者の利便性を損ねることにつながる。「現実的には難しい選択肢だ」とBassetは分析しているが、法対応など開発コストが増え続ける中で、各仮想通貨交換業者は対応を迫られる。

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