楽天の「送料無料」は大丈夫なのか ロジックが微妙スピン経済の歩き方(2/5 ページ)

» 2020年02月04日 08時08分 公開
[窪田順生ITmedia]

日本と南米で「Amazon」のポジションが違う

 まず、南米と日本では「送料無料」が意味するところがまったく違う。例えば、旅行ガイドブック『地球の歩き方』の「特派員ブログ」の中でブラジル/カボフリオの現地情報発信しているHarumiさんの一文を引用させていただこう。

 『先日ネットショップのアマゾンで買い物をした際、発送完了メールがきてお届けの日時も記されていました。日本だったらほぼ確実にその日程で届くと思うんですがブラジルではそうはいきません。パッケージが何便かにわかれていたんですが、ある物は予定を2週間過ぎても届かない、ある物は予定より一週間早く着いたり、ある物は「配達完了」になっているのに届いていなかったり、、そして終いにはいくつかまとめて届くなど、本当に数字が当てになりません』(2019年3月30日)

 このようにかなりルーズな宅配事情の国で送料がタダになりましたというインパクトと、日本のように宅配インフラが成熟し過ぎた感のある国で送料がタダになりましたというインパクトを同列に扱うのは、かなり疑問だ。

 そこに加えて、日本と南米では「Amazon」という巨大プレイヤーのポジションがまったく違う。

 日本では、Amazonは楽天市場としのぎを削るトップ2だが、南米ではそれほどの地位を確立していない。物流などの問題もあって、そこまで本格的に進出していないのだ。例えば、ブラジルでAmazonが直販をスタートさせたのは昨年1月。プライム会員施策をスタートしたのは昨年9月のことである。

 Amazonの売り上げはアメリカが大半を占めて、次いでドイツ、イギリス、日本となっている。それ以外の国の売り上げをすべて合わせても10%ほど。それは裏を返せば、メルカドリブレの成長は「送料無料ラインの統一」もさることながら、Amazonという「脅威」がない中南米市場だから実現できたという側面もあるのだ。

 これだけ社会の中でAmazonが存在感を示し、プライム会員が右肩上がりで増えている日本で、メルカドリブレと同じことをすれば、同じように物流総額が上がるというのはかなり楽観的というか、甘い見通しだと言わざるを得ない。

 というと、送料無料ラインの統一に反対しているように聞こえるかもしれないが、筆者はこの施策を否定するつもりはない。

(出典:ロイター)

 プライム会員施策で利用者を右肩上がりで増やしているAmazonに対抗するには、このような全店舗統一のルールで顧客満足度をあげていくしかない楽天側の事情はよく分かる。「楽天市場」のブランディング強化という点でも、こういう経営判断を下すのも極めて自然の流れだ。

 ただ、それを押し通すために、「送料無料ラインを統一すればみんなハッピー」という無理のあるメッセージをゴリ押しするやり方に危うさを感じる、と言いたいのだ。

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