楽天の「送料無料」は大丈夫なのか ロジックが微妙スピン経済の歩き方(3/5 ページ)

» 2020年02月04日 08時08分 公開
[窪田順生ITmedia]

「現場のブラック労働」によって実現

 無理のある話を押し通す企業は、どうしても社会から傲慢な印象を抱かれる。さらにイメージを悪化させるのが、「送料無料」というワードだ。

 10年前くらいのEC業界では「なんでお客様が送料を払わなくちゃいけねーんだよ、こんな詐欺通販、二度と使わねえ!」とクレームを入れる客があふれていたが、2〜3年前から「人間が運ぶんだからある程度の送料は必要だよね」という社会通念が少しづつ広まった。

(出所:ゲッティイメージズ)

 背景にはあるのは、17年に話題になった「宅配クライシス」、そしてヤマト運輸の残業代未払いなどだ。これらの社会問題によって、「時間指定配送」「即日配送」「不在だったら何度も再配達」という世界でもトップレベルの手厚いサービスが、なんのことはない「現場のブラック労働」によって実現されていたという醜悪な現実が世間にバレてしまったのだ。

 これによって「送料無料=誰かのブラック労働、誰かの搾取で成立する無理」というパブリックイメージが徐々に確立されていく。そのため、EC企業が「送料無料」に背を向けても以前ほど叩かれることがなくなったのだ。

 分かりやすいのが、ZOZOである。今でこそ温厚な感じで、愛や平和を叫んでいる前澤友作氏だが、12年ごろはまだギラギラしていて、SNSで「ZOZOTOWNの送料が高い」「詐欺」と文句を言った女性に対し、「ただで商品が届くと思うんじゃねえよ」などとツイートして、大炎上したことがある。それを受けて、前澤氏は謝罪して、ZOZOTOWNの送料を一時期、完全無料にしていた。

 その後、客側が自由に送料を決められるなどのユニークな取り組みをしていたのだが、17年11月に「送料一律200円」へと移行したのである。ECサイトのユーザーは「送料無料」じゃないとあっという間にそっぽを向く、というひと昔前の常識からすればあり得ない「愚策」だが、ZOZOの客数や売り上げに大きな影響はなかった。

 もちろん、プロモーションやZOZOスーツのような新しい施策を打っていたこともあるが、先ほども述べたように宅配クライシスなどから、物流事情がひっ迫しているという社会的なコンセンサスが取れてきたことで、消費者の意識が「なにがなんでも送料無料」という感じでもなくなってきたのだ。

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