ソフトバンク漏えい事件で注目 ロシアスパイが操る伝説の“人たらし術”とは実はビジネスにも通じる交渉術(3/4 ページ)

» 2020年02月14日 08時00分 公開
[津久田重吾ITmedia]
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「相手の得意分野」でわざと間違う

 さて、ゾルゲの諜報活動が成果を挙げたのは、政府中枢に近しい人物を情報提供者にすることに成功したからである。スパイとは本来、この情報提供者のことだ。

 諜報部員は目的の情報にアクセスできる人間を選び、注意深く観察する。経済状況、趣味、家庭内の事情、上司や部下との関係、職場での権限の範囲などである。親しくなるための方法は膨大なパターンが研究されており、マニュアル化されている。

 知り合うきっかけは偶然を装う。どこかのレセプション会場で「ウーロン茶と水割りを間違えてしまった。バーテンダーは取り換えてくれるでしょうか?」と困り顔で話しかけてくるかもしれない。ビジネスの現場で、無下に断るのは難しいだろう。

 ある程度、親しくなると、彼らはささやかな情報をリクエストする。最初はインターネットで簡単に見つかる程度のものである。「そのぐらい検索すればいい」と返されたら「自分は日本語が得意ではない」という言い訳がある。片言しか話せない外国人に対しては、誰もが必要以上に饒舌(じょうぜつ)になる傾向があるからである。

 相手の得意分野について、わざと間違ったことを言うのも効果がある。SNSで間違った知識を得意気に披露すれば、たちまち大勢の人々が正解を書き込む。それと同じである。

 しかし、だからといって特定の情報にこだわるような態度は見せない。メモをとることも無い。相手に自由にしゃべらせ、有益な情報を記憶し、拾い集めて組み立てる。報酬は次第に上がり、要求する情報は高度なものになっていく。

 一方、スパイ(情報提供者) になる側は、いくつかの動機に分けることができる。

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