クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

ハスラーの進歩池田直渡「週刊モータージャーナル」(3/6 ページ)

» 2020年02月17日 07時15分 公開
[池田直渡ITmedia]

軽自動車のトレンド変化

 さて、そうした意味で、現状国内専用色が強い軽自動車は、どのような流れで現在に至っているのだろうか? 歴史を紐解(ひもと)くと、かつてこのクラスを購入する人は、車両価格も維持費も「安い」ことが最も大事な購入動機だった。79年に登場したスズキ・アルトは、リヤシートを敢えて狭くすることで、軽商用車の規定に収め、「安価な商用車税を適用にすることでランニングコストを下げる」という鈴木修現会長の卓抜したアイディアが産んだ大ヒットモデルであった。以後しばらく、軽商用規格の軽ボンネットバンが、軽自動車のマーケットを席巻したのだ。

 その後衝突安全規制が軽自動車にも適用されることになり、サイズと重量が増えたことを補うために、エンジン排気量は660ccまで拡大された。そうやって広い空間を手に入れ、動力性能を向上させた軽は、地方の人々の一人一台需要を中心に猛烈に普及していったのだ。

 さて、その激戦区である軽自動車マーケットにおいて、ここしばらく売れているクルマは、キャラ立ちがしっかりしたモデルが多い。ただ「よく出来ている」だけではなく、そこに「所有するよろこび」があるかどうかが問われ始めている。これが最新の変化であり、その変化に最も適合してみせた一台がハスラーだ。

キャラを立てた初代ハスラー

 例えばハスラーは、キャラクターそのものが、指名買いにつながる商品力を持っている。サイズ規定が厳しい軽自動車は、純粋なデザインにスペースを費やす事が難しい。そのためボディそのものは法規定をいっぱいに使った箱状になりやすい。実際軽自動車の全長・全幅は例外なく共通である。あとは必要な空間に応じて高さを3種類に作り分けている。

 スズキでいえば、一番低いアルト、トールボディのワゴンR、スーパーハイトのスペーシアが基本軸になって、ラパン(旧アルト・ラパン)やワゴンRスティングレー、スペーシア・ギアなどのサブネームの付いた各モデルのバリエーションが派生する形だ。ちなみにハスラーは真ん中のワゴンRの派生車種だと考えていいが、ヒットモデルだけあって、多岐に渡って専用部品が使われている。

 どうしても似たデザインになりがちな軽だが、ハスラーはそこにクロカン的なデザインを持ち込んだ。具体的にどこがということではないが、なんとなくトヨタ・ランドクルーザー(40型)あたりのイメージを上手く落とし込んだデザインであり、そういうラギットなシェープに対してポップな色使いの組み合わせをした遊び感が明確な個性となった。いろいろある軽の中の任意の1台ではなく、ハスラーらしさをしっかり打ち出すことに成功した。そこに表出するイメージは「頼もしさ」「かわいさ」「親しみやすさ」というところだろう。かくしてハスラーは大ヒットモデルになったのである。

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