クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

ハスラーの進歩池田直渡「週刊モータージャーナル」(6/6 ページ)

» 2020年02月17日 07時15分 公開
[池田直渡ITmedia]
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メカニズム構成とインプレッション

 ベースとなったワゴンRに対し、車高はプラス30ミリ。旧型では底付きしてしまうシチュエーションでも底付きを回避するように設計を改めた。基本はオンロードよりのセッティングながら、悪条件での走行への対応を向上させている。

 例えば、アプローチアングルやデパーチャーアングルも増やされているが、そもそもベースがワゴンRであり、当然本格的なクロカン車両であるジムニーとは違う。ただし、普通のドライバーが「走れそうだ」と思うようなところなら、たいてい走れる。ジムニーでないと無理なところは普通の人が見て、「こんなとこクルマで走れるわけがない」と思うような場所だ。ちなみにリヤサスは、2駆はトーションビームアクスル、4駆はスズキ伝統のITL。つまり左右一対のトレーリングアームでデフハウジングを両側から保持する形式だ。

 さて、問題点を挙げよう。まずはシート。座面の左右方向の保持が弱い。大したことのない横方向の加速度によって骨盤が傾いてしまう。ドライバーがそれに対抗するにはインナーマッスルで支えなくてはならない。日常の生活を共にするクルマとしては、乗降性が大事なので、サイドボルスター(座面や背もたれ両サイドの盛り上がり)で支える方法は採りたくない。だから平板なシートになっているのだが、座面の面圧分布がよろしくない。もう一点は座面と背もたれの一体感。座面と背もたれの境目付近において中央部は良いのだが、両サイドがほとんど体に当たらない。まるっきりダメだとは言わないが、シートについては高評価はあげられない。

 一方でステアリングコラムの剛性感は高く、操作感も滑らかで、こちらは全体の上質なテイストによくマッチしている。直進安定性は良好で、曲がり方も素直なだ。ただし高速道路のランプなどで時速50キロ程度の穏やかなコーナーリングに入る時、前輪の接地感が少し希薄になる。グリップそのものが足りないということではなく、インフォメーションが薄くなる感じだ。ただ不安は感じるものの、その先で何かが起こるわけではない。そこは安心していい。

 さてさて、こうやって欠点を挙げるとまるでクルマそのものにダメ出ししているように聞こえるかもしれないが、総合点としてはかなり高評価だ。毎日の下駄として付き合うのであれば、素直な性格と軽らしからぬ上質感でもてなしてくれる。

 少なくとも誰かが「ハスラーを買おうと思うんだけど」と筆者に相談してきた時、否定的な言葉は口にしないだろう。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

 1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。


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