「世界の工場」中国への依存度KAMIYAMA Reports(2/2 ページ)

» 2020年02月18日 14時11分 公開
[神山直樹日興アセットマネジメント]
日興アセットマネジメント
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今後の注目点:生産停止期間と取り残された需要の回復

 中国で世界の需要を満たす生産が再開されるタイミングについて、春節(旧正月)休暇後も休業を続けていた会社で、生産現場がそろそろ仕事を始める準備をしていると報道され始めている。2月9日付日本経済新聞では、トヨタ自動車が17日の週に再開を遅らせると報じているが、工場などでなんらかの防疫措置をとるなどして、17日の週などから再開したい会社もあるということだ。

 もちろん、実際にいつごろから生産が本格的に再開するのか、現時点でどの程度生産が遅れるのか、などを想定したり予想することは難しい。仮に、今後世界の需要に応えるための生産が4〜5月まで長期で回復しないとすれば、世界のGDPは販売できない製品分、低下することになる。しかし、その後に生産が回復し、数カ月たまった世界需要に商品が供給されることになれば、その分が売上げに上乗せされると想定される。

 投資の観点からみると、2月中にも中国の生産がおおむね再開され、春ごろまでに安定するのか、そして、その後にたまっていた世界の需要が十分満たされるかどうか、に注目する必要がある。3カ月以上の期間、世界の工場としての中国が、サプライチェーンに重大な影響を与えるとすれば、世界のGDP成長率などの予想が見直される可能性がある。また、需要が安定し、生産回復でたまっていた需要(ペントアップ・デマンド)が戻ったときには、キャパシティ不足で緩やかな景気回復にとどまる恐れも残る。

 次に、中国国内の消費について考えておこう。中国国内の需要が世界経済に与える影響はそれほど大きくないとみている。自動車など、中国需要のシェアが高いセクターがいくつかあるが、一時的に購買できない状態があったとしても、取り残された需要による販売回復を期待できる。また、もともとデレバレッジ政策からマイルドな政策への転換を進めていた財政・金融政策がさらに緩和的になり、年後半の需要を刺激するように働くことも期待できるだろう。

 中国からの訪日客について、中国人客数のシェアは30%と大きくなっている。日本での宿泊や食事、移動などの支出は、日本経済の大きな部分を占めるとはいえないものの、消費分野などでは重要性が高い。

訪日外国客の国・地域別内訳と月別訪日中国人客数の推移(2019年、11月と12月は推計値)

 ただし、興味深いことに訪日中国人客数は1〜2月の春節時よりも7〜8月の方が多い傾向にある。2019年の訪日中国人客数のピークは7月(105万人)で、2月(72万人)の約1.4倍となっていた。19年7〜9月期の訪日客数は1〜3月の約1.3倍だった。20年については、年末に観光を予定していた中国人客が、7〜9月に開催される東京五輪・パラリンピックに合わせて前倒しで訪日した場合、受け入れキャパシティの不足が問題になる恐れがある。ただし、現時点では、喪失した需要が年後半に上乗せされる可能性はある。

 最後に、貿易摩擦について考えよう。今年2月、貿易交渉を巡る第1段階の合意が発効し、米中は貿易摩擦が本格化してから初めて関税率を引き下げた。中国に進出する米国企業は今回の合意を前向きに評価していることもあり、新型肺炎の混乱の中でトランプ政権が関税引き上げを言い出す必要はなさそうだ。

 しかしながら、今年の大統領選で、トランプ氏が楽勝するとは考えにくい。前回の大統領選挙でのトランプ氏の得票総数は、クリントン氏より少なかった。勝敗を決めたのは、いわゆるスイング・ステート(共和党か民主党か勝敗が揺れ動く州)で、中国に関税などで対抗して雇用を増やすと公約したトランプ氏の勝利だった。しかし、結果としてその地域の雇用が大きく伸びたとはいえず、これまでの成果を主張することが難しい選挙戦になるだろう。そのとき、中国への攻撃を強めようとする恐れはある。経済が磐石でも市場は揺れるかもしれない。

筆者:神山直樹(かみやまなおき)

日興アセットマネジメント チーフ・ストラテジスト。長年、投資戦略やファイナンス理論に関わってきた経験をもとに、投資の参考となるテーマを取り上げます。

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