2019年12月に都内で「2020年の金融を紐解(ひもと)く」と題して、auカブコム証券の齋藤正勝社長、auじぶん銀行の臼井朋貴社長、ジャーナリスト・キャスターの堀潤氏による特別座談会が行われた。座談会の中では堀氏が「老後資産2000万円問題」「消費増税」「FinTech」という3つのテーマを取り上げ、斎藤・臼井両氏にそれぞれ質問を投げかけていった。
特別座談会後、ここのところ手数料無料化競争の激しいネット証券業界について、斎藤社長に単独インタビューを実施した。聞き手はマネネCEOで経済アナリストの森永康平(敬称略)。
――2020年は5Gやキャッシュレスなどによって世の中のサービスが大きく変わっていくといわれていますが、これからの金融業界はどう変わっていくのでしょうか?
金融業界には変化をネガティブに捉えている人も多い気がしますが、テック系企業の人たちが注目しているのは新しい金融仲介業サービスです。これまで金融業界は参入障壁が高かったものの、今後は非金融の事業者も簡単に入れるようになります。つまり、金融業界も構造変化の時代にいよいよ入ろうとしているのです。
SBI証券や楽天証券もそうかもしれないですが、ネット証券は「ただのブローカー」ではなくなってきています。いままでやってきたことの集大成が試されます。これからは手数料無料化が拡大し、既存の証券会社はプラットフォーマーになっていく。そしてそのうち数社だけが総合的なプラットフォーマーとして生き残ると思います。
それ以外は、日本株やクリプト(暗号資産)などに特化したカテゴリー・プラットフォーマーが増えていくのではないでしょうか。API(※)を公開することで、他業種からの新仲介業者も参入してくるかもしれません。
(※)あるコンピュータプログラム、ソフトウェアの機能や管理するデータなどを、外部の他のプログラムから呼び出して利用するための手順やデータ形式などを定めた規約
――確かにここ最近は、各社が手数料無料化に関するリリースを矢継ぎ早に出していますし、FinTechベンチャーや非金融事業者の証券業参入などによって、久しぶりに証券業界にも大きな波が来そうな状況ですね。
変化は起きるべきです。そもそも、金融機関は構造的な問題を抱えています。例えば、証券業界でいえば、地場証券やスマホ証券から野村證券や大和証券などの大手まで、各社がそれぞれシステム投資をしています。コンプライアンス部門やバックオフィスも各社が自前で全て揃(そろ)えています。
マネーロンダリングやテロ資金への対策まで求められたとき、新興の仮想通貨業者やFX(外国為替証拠金取引)業者、小さな地銀など、全ての金融機関が耐えられるのか、という疑問があります。基幹システムも各社が持ち、コールセンターや事務も各社が個別に持っています。
例えば、口座開設をする際に、ネット証券の大手5社を同時に口座開設できるようにしてもいいわけです。金融ってそもそも装置産業ですよね? という話になってきています。
APIを公開して連携することによって証券業にかかわるシステムの部分は気にせずに、RM(リレーションシップ・マネジメント、クライアントとの関係をマネジメントする業務)にだけ集中して、お客さまから対価をもらう人や業者が増えていく方がいいのです。証券会社には事務やシステムサービス利用料を定額で払えばいい。2020年中には、そのような業態が誕生するでしょう。
特別なことを言っているように聞こえるかもしれませんが、金融以外の業種の人たちからすれば、「ようやく金融もわれわれと同じになるんだ」と思うだけでしょう。
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