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auカブコム証券・齋藤正勝社長「日本のネット証券は構造を変えるべき」――手数料競争から“資産形成サービス”競争へ(3/3 ページ)

» 2020年02月20日 05時15分 公開
[森永康平ITmedia]
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最低でもネット証券の上位3社に入る

――米国ではロビンフッドが手数料無料を打ち出し、すでに1000万口座を突破しました。その影響もあり、大手も軒並み手数料無料化に追従し、その結果、チャールズ・シュワブによるTDアメリトレードの買収など、業界再編にもつながりました。日本でも手数料無料化の動きが加速しています。ここのところ、各社が矢継ぎ早に手数料無料化に関するプレスリリースを出しているわけですが、各社戦略があったうえでの行動なのでしょうか? 他社の動きに合わせて、リアクションベースでプレスリリースを出している印象です。

 確かに、他社に差をつけられたくないから、次々に発表をしている会社もあるでしょう。ただ、当社は計画通りです。auカブコム証券という新会社発足のタイミングでやると決めていました。

 日本のネット証券は構造を変えるべきなんです。各社が自分たちの食い扶持(ぶち)を気にしているからおかしくなる。このまま手数料無料化が進んでいけば、プラットフォーマーとして3社か4社が残るかたちになって、この文脈ではM&Aが進むかもしれません。ただし、一方でRMとして業界に参入する人や業者は無限です。増える可能性の方が高い。対面証券からスピンオフしてRMという人も出てくるかもしれない。「Yahoo!ファイナンス」やfreeeなんかもRMになりえます。

――貴社はプラットフォーマーとRMのどちらを目指していくのでしょうか?

 当社はプラットフォーマーを選びます。当社の株主構成は三菱UFJ証券ホールディングスとauフィナンシャルホールディングスですが、KDDIは通信のプラットフォーマーの3つに入っていますし、三菱UFJもメガバンクとして大手3行に入っています。ですから私たちも、最低でもネット証券の上位3社に入らないといけません。

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手数料競争からパフォーマンス競争へ

――手数料無料化でネット証券業界を中心に大きな動きが出てきそうですが、どのような方針で戦っていくのでしょうか?

 お客さまのパフォーマンスが全てだと思っています。例えば、手数料がいくらであっても、手数料控除後のトータルリターンで当社のお客さまが一番儲かっていれば、当社だけ手数料が高かったとしても、お客さまは集まるんです。もちろん、手数料は分かりやすい指標ですから、当社も無料化を仕掛けました。プラットフォーマーになるなら、手数料はゼロにしなくてはいけませんから。

――ネット証券というと、手数料がいかに安いか、商品の種類がどれだけ豊富なのかという点で勝負をしてきた印象があり、なかなか顧客のパフォーマンスには言及しませんね。

 お客さまのパフォーマンスを上げるサービスを提供していきたいと考えています。楽天証券は楽ラップ、SBI証券だとWealth Naviになるのでしょうか? 競合各社もロボアドバイザーを提供していますが、既存のロボアドバイザーはバランスファンド(世界のさまざまな金融資産に分散投資する投資信託)のようなもので、それらとは全く違うものだと感じています。

 要は世界中の富裕層が利用しているような、ツーシグマ・インベストメント(AIなど最先端テクノロジーを駆使する米国のヘッジファンド)などのヘッジファンドを、個々人がやるイメージです。ヘッジファンドはボラティリティ(価格の変動性)が高いときは一気に取引をしますが、相場が凪のときは取引をしません。

 ただ、このような相場のボラティリティに合わせて売買がされると、手数料が気になるわけですが、手数料がゼロになれば、そこは気にしなくてよくなります。うまくいったときだけ成功報酬をもらうようなかたちにしたいですね。

 ネット証券は手数料競争からパフォーマンス競争(資産形成サービス競争)になっていくでしょう。本当は信用取引の手数料無料化と合わせて、このサービスも公表したかったのですが、タイミングが合いませんでした。

――「手数料も安くして、商品数も増やして、ツールもサイトも使いやすくなったので、個人投資家は自己責任で頑張ってください」というスタンスから、ネット証券が個人投資家のパフォーマンス向上に寄与するというのは妥当な発想ですね。

 手数料を下げて、情報格差をなくして、UI/UXを向上させたらお客さまが増えると思っていたわけです。メガバンクと組めばお客さまは増えると思っていた。でも、結果的にそんなことはなかった。根本的に間違ってたんじゃないかなと思い始めたんです。

 サイト上にランキングを出して売っておいて、お客さまが負けても自己責任というのは、アフターサービスという概念がないということなんです。アフターサービスがない業界は証券会社だけですよ。他の業種では普通です。証券会社のコールセンターもアフターサービスではなくて、あくまで取引するための説明をしているだけ。

 これから金融業界はようやく、他の業界が普通にやっていたことをやっていくフェーズに入っていくのです。

著者プロフィール

森永康平(もりなが こうへい)

株式会社マネネCEO / 経済アナリスト。証券会社や運用会社にてアナリスト、ストラテジストとして日本の中小型株式や新興国経済のリサーチ業務に従事。

現在は複数のベンチャー企業のCFOや監査役も兼任している。

 著書に『親子ゼニ問答』(角川新書)。日本証券アナリスト協会検定会員。Twitterは@KoheiMorinaga


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