炎上「宇崎ちゃん」献血コラボ継続の影で、ラブライブのパネルが撤去されたワケ古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/3 ページ)

» 2020年02月21日 10時00分 公開
[古田拓也ITmedia]

“損失回避性”が現状判断を歪ませる

 今回の事例を行動経済学的にみると、実はJAなんすん側は理にかなった行動を取っているとも考えられる。JAなんすん側が「パネル撤去」という判断に至った背景を、人間の意思決定にまつわる理論の「プロスペクト理論」からひも解いていきたい。

 プロスペクト理論とは、人間が不確実性の下でどのような意思決定を行うのかを示した行動経済学の理論だ。「50%の確率で10万円をもらえるか、100%の確率で5万円をもらえるかという選択肢が与えられた場合、多くの方は確実にもらえる5万円を選択する」というたとえかたがよくなされる。

 この事例では、「期待値」の考え方からすれば、いずれも5万円であり、どちらを選んでも期待される効用は変わらないはずだ。しかし、人間は逸失利益や損失をより重視する傾向があるため、「確実な5万円」を選択する傾向が強い。

 さらに分かりやすくするために、金額を極端にしてみよう。10%の確率で1000億円が手に入るか、100%の確率で10億円が手に入る場合ではどうだろうか。期待値で考えると、「1000億円」の期待値は100億円となり、「10億円」の期待値は10億円となる。こう考えると、前者の方が10倍も有利な条件であることがわかる。しかし、いくら期待値が有利であろうと、私を含めた多くの人々は10億円のほうを選ぶのではないだろうか。

 現代社会において、10億円もあれば不自由ない生活を送ることができるだろう。一方で、もし1000億円を選んで外すことがあれば、確実にもらえたはずの10億円が失われ、明日からまた仕事に出向かなければならなくなる。人間が得られる効用は、金額の伸びに比例せず、「不自由ない生活」が逸失してしまうリスクがあるという「損失回避性」によって判断が歪むのだ。

 これを考えると、撤去を決めたJAなんすん側の対応は、まさにプロスペクト理論的である。

 当時のJAなんすん側には、「パネルを展示し続ける」または「パネルを撤去する」という選択肢があった。これを抽象化すると、「パネル展示により、西浦みかんの売上がX%上昇する代わりに、炎上によってJAなんすんのブランド価値がY%下がってしまう」という選択肢と、「西浦みかんの売上上昇効果X%が得られない代わりに、炎上によってJAなんすんのブランド価値がY%下がらずに済む」という選択肢となる。

 パネルをショッピングセンターに設置することで、人々の購買機運が爆発的に高まるかといわれれば、決してそうではないだろう。パネル設置の売上アップ効果が限定的であるとすれば、炎上中のパネル設置継続は「利益限定、損失無限大」に陥る可能性があり、経済的合理性に乏しい。JAなんすん全体のブランドイメージが毀損されるリスクを考えると、「とりあえず撤去する」という判断になるのもうなずける。

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