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横行する「ブラッククビ」、急増する「非正規コスト」 4月に勃発する“雇用大変革”に対応できない企業は淘汰される守れない経営者は「前科」に(2/5 ページ)

» 2020年03月03日 05時15分 公開
[成相裕幸ITmedia]
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人手不足倒産も増加 ますます増える非正規コスト

 自社で働いてくれる人に来てもらうために待遇や労働環境、福利厚生をアピールしなければいけない時代です。「雇ってやる」、そんな時代ではない。人間の寿命が延び、逆に企業の寿命は短くなるといわれている不確実な時代においては、経団連の中西宏明会長もトヨタ自動車の豊田章男社長も言っていますが、終身雇用の慣行は会社からみても変わっている。

 労働者からみても「別にこの会社にいることにこだわらない」と考えて、退社することになれば、採用コストもかなり上がるでしょう。

――すると正社員ではない契約社員や派遣社員など非正規採用が重宝される流れですか。

 4月から派遣労働者も同一労働同一賃金の対象になります。今は正社員が採用できないために派遣社員で補っていますが、そのコストも上がる。大手企業が派遣会社との交渉を進めていますが、その動きをにらんで3月ギリギリになって中小派遣会社も料金交渉を進めるでしょう。厚生労働省のQ&Aもギリギリまで追加で出てくるでしょうが、まだ実務として固まりきっていないところがあります。

 派遣には、労使協定方式といって、派遣先との同一労働同一賃金を検討しなくて良くなる代わりに、最低賃金とは別に全国一律の職種別賃金を設けるという制度があります。それに地域係数と能力経験指数をかけて時給を算出します。コストが非常に増大している。その他「紹介予定派遣制度」のように、派遣から正社員という流れもあります。6カ月たってその後に正社員または契約社員になるかを互いに話し合って決めるものですが、そこを考慮すると、直接雇用のほうが安くなることだってあり得るわけです。

 さらに基幹業務はどこも長期雇用の人たちでやるのが一般的です。その人材を獲得して育成していくことが大事になります。

 新卒で入ってみな横並びでスタートして毎年同じように給料が上がっていく時代は終わりました。しっかり実績を残している人には相応に報いるなど、経営者が成果・役割主義の意識をもっていないといけない。雇用環境がいま劇的に変わってきています。その大きな節目が20年4月です。そこに気付かないと時代遅れになってしまいます。

phot 派遣元事業主は「派遣先均等・均衡方式」もしくは「労使協定方式」、いずれかの待遇決定方式により派遣労働者の待遇を確保することとされている。「労使協定方式」については、「同種の業務に従事する一般労働者の賃金」と同等以上であることが要件となっている
phot 「基本給・賞与等」「通勤手当」「退職金」の3つについて支給水準が定められている

――人手不足への対応で、外国人労働者への依存も高まりそうですね。

 人手不足倒産はこれからもどんどん起きるでしょう。そこを補うのに国は外国人技能実習生制度に期待し、19年4月の法改正では特定技能として日本の職場にどんどん入れていこうとしています。ですが、正直、パスポートを取り上げるようなヒドイ事例や「5年で帰れ」など本当に来てほしいのかが分からない建前的な制度にも思われます。

 加えて外国人労働者などに対して「最低賃金よりも安く使える労働力」という間違った認識をもっている経営者もまだたくさんいます。そうした実態がある中で、きちんと定着するのかが疑問です。根本的な人手不足問題は変わりませんし、会社の中核となる人材をどう採用するのかは別に考えなくてはいけません。

phot 「人手不足倒産」件数は増加している(出所:帝国データバンク発表のプレスリリース、なお「人手不足倒産」とは、従業員不足による収益悪化などが要因となった倒産(負債1000万円以上、法的整理、個人事業主を含む)を指す)

――同一労働同一賃金が今後浸透していく中で、非正規に支払う手当や給料が増えることで正社員へのしわ寄せもありそうです。

 会社が従業員に支払う給与の原資は限られています。パイは1つなのです。それをどう分け合うか。パートに対する厚生年金の適用拡大も検討されています。非正規に払うコストが増えていく分だけ、正社員のコストが削られていく。現在、国はできるだけ正社員の待遇に近づけようとしています。

 さらに21年4月から企業の努力義務として、希望すれば70歳まで働き続けることができる制度の整備も進んでいます。すると一般的な60歳定年からその後の10年間、それなりの時間を会社で過ごすわけです。

 会社としては、「せっかくいてもらうなら」と彼らの仕事や人材活用を考えなければいけませんが、それもトータルのコストに入ってくる。当然、現役世代に回せる分が減ります。

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