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横行する「ブラッククビ」、急増する「非正規コスト」 4月に勃発する“雇用大変革”に対応できない企業は淘汰される守れない経営者は「前科」に(1/5 ページ)

» 2020年03月03日 05時15分 公開
[成相裕幸ITmedia]
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 2020年4月は雇用環境が劇的に変わる大きな節目になる――。4月からの働き方改革関連法の施行によって、残業時間の上限規制が日本国内すべての事業者に適用となる。この「雇用大変革」への対応が急務と警鐘を鳴らしているのが企業労働法に詳しい倉重・近衛・森田法律事務所の倉重公太朗代表弁護士だ。

 とくに日本企業の99%を占める中小企業、そして創業間もないベンチャー企業などは人事労務管理への理解が浅いことも多く、違法な解雇「ブラッククビ」などの事態も起きている。慢性的な人手不足に悩む中小企業経営者は何を注意しなければならないのか。また働く側はどんな意識づけが必要なのか。これから求められる働き方と合わせて倉重弁護士に聞いた。

phot 倉重公太朗(くらしげ・こうたろう ) 倉重・近衛・森田法律事務所 代表弁護士。慶應義塾大学経済学部卒。第一東京弁護士会労働法制委員会 外国法部会副部会長。日本人材マネジメント協会(JSHRM)執行役員。日本CSR普及協会雇用労働専門委員。労働審判・仮処分・労働訴訟の係争案件対応、団体交渉(組合・労働委員会対応)、労災対応(行政・被災者対応)を得意分野とする。企業内セミナー、経営者向けセミナー、社会保険労務士向けセミナーを多数開催。『雇用改革のファンファーレ』(労働調査会)など著書多数。日本経済新聞社「第15回 企業法務・弁護士調査 労務部門(総合)」第6位に

残業の上限規制 守れなければ「刑事罰」も

――19年4月に大企業を対象とした働き方改革関連法が施行され、残業時間の上限規制が始まりました。現場で混乱などはあったのでしょうか。

 大きな違反事例はまだ聞こえてきません。それよりも20年4月以降の中小企業が対象になる(残業の上限規制)全面適用の方が影響は大きいです。どこまで取り締まるかにもよりますが、大きな改正なので実績アピールも込みで、必ず取り締まられる中小企業がでてくるでしょう。これは刑事罰の対象で「前科」になります。上限を守らないと労働基準法36条6項の違反となり、6カ月以下の懲役か30万円以下の罰金が科されます。

 いきなり起訴されるかどうかは別として、そういう事態になりうる状態にあることを、まず経営者は認識すべきです。しかし、今その意識をもっている人がどれだけいるか不安なところがあります。

 労働基準監督署の重点項目として「労働時間の把握」があります。時間外労働と休日労働の合計について、月100時間未満または2〜6カ月平均で80時間以内におさめなくてはいけない。そしてあくまで月の平均なので毎月残業の上限時間が変わる。先月90時間だったら今月は70時間となるわけです。さらに2〜6カ月平均をとらないといけない。人力では無理です。

 そもそも労働時間を把握できるシステムを導入しているのか。求められるのはタイムカードやICカード、PCオンオフ時刻による「客観的」な労働時間の把握と、自己申告との乖離(かいり)を把握することです。むろん現在も工場の入口にタイムカードを把握するなどして、きちんと(時間を)測っている中小企業もあります。指紋認証や静脈認証、目の網膜をスキャンして管理するシステムもあります。

知らなかったでは済まされない

――そういったシステム開発は中小企業には難しいのではないでしょうか。

 自社開発だと何千万円という投資が必要でしょうが、安価なクラウド管理サービスが多数出ています。人力ではとても手間のかかる労働時間の客観的な把握のためにPCのログオンとログオフで測ったり、タイムカードの入退室管理と、自己申告との齟齬(そご)をチェックできたりするものですが、一人あたり300円程度でできるサービスもあります。

 費用的にも「できない」とはいえなくなっています。労働時間を客観的に把握できるようなIT環境は整っています。知らなかったでは済まされない、言い訳が許されない時代になっています。

――まずはその法律の中身を知り、具体的な対処法を知ることが第一にすべきことだと。

 法律を守ることはあくまで最低限。これからとくに中小企業はいかに自社で働いてくれる人材を確保するか、つまり労働者に「選んでもらえるか」が最重要の課題になります。地方の企業に話を聞くと、いまだに管理職は男性だけだったり、外国人はたくさんいるのに昇進させるには抵抗感があったりする――そんな感覚を現場がもっていることもあります。

 女性や外国人の下で働くのはイヤだとか、そういう昭和的な意識が変わっていない人もいる。ですが、明らかにそれはもう言えなくなります。若くて優秀な人に来てもらえなくなるからです。言葉でダイバーシティーとは言いますが、本当に実践するには意識が変わらないといけません。それは「ダイバーシティーを推進しよう」という掛け声では無くて実際に外国人を課長にしてみることです。そんな実践が必要な時期に来ていることに経営者が気付く必要があります。

phot 「残業時間の上限規制」の概要(以下、資料は厚生労働省のWebサイトより)
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