#SHIFT

ジャニー喜多川は偉大な「2軍の監督」だった 部下の個性伸ばす「ジャニーズ式教育法」とは?管理職の課題(2/5 ページ)

» 2020年03月10日 05時15分 公開
[成相裕幸ITmedia]
※本記事はアフィリエイトプログラムによる収益を得ています

SMAP以降は個性を消さずに育てる

 とくに90年後半にその傾向は顕著です。例えばそれ以前のたのきんトリオや少年隊はジャニーさんの世界観や時代の求めるものにあてはめてデビューさせたグループと言えますが、90年代後半、つまりSMAP以降はおのおのの個性を生かしたまま育てている感じがします。顕著な例がニュースキャスターをつとめる嵐の櫻井翔さん、小説家のNEWS加藤シゲアキさん、気象予報士の資格をもつSnowManメンバー阿部亮平さんです。 

 阿部さんは上智大学大学院の修士課程を修めています。これは時代がそうさせたとも思います。デビューしているジャニーズタレントだけで100人規模、さらに「デビュー待機組」のジュニアはもっといます。個性を残しておかないと、ただかっこいいだけではジャニーズでも売れない時代になり、おのおのが考えた上でこうなった部分があると思います。

 その個性を保ったままグループとして長く続いている成功例がV6です。2020年にデビュー25周年を迎えますが、実は世界的にみて25年間メンバーが減らずに続いているボーイズダンスボーカルグループはV6とBackstreet Boys(バックストリートボーイズ)くらいでかなり珍しい例です。メンバーそれぞれが映画俳優やミュージカル俳優として評価が高かったり、NHKの朝の顔だったり、手話ができて番組をもったりと自分の得意なものを見つけている成功例だと思います。

 ジャニー氏は自分のプロデュースしたショーの数、オリコン1位をとった曲の数などでギネス記録をもっていますが、これまでの話と重ねて言えば、多種多様な人材を育てながらタレントの個性を消さず、さらに大ヒットを飛ばした。つまり、世の中的な成功をさせることと、個性を生かす、という相反することを両立させた教育者と言えるのではないでしょうか。

phot 25年間メンバーが減らずに続いているボーイズダンスボーカルグループBackstreet Boys(バックストリートボーイズ、Wikipediaより)

「2色のペン」で丸をつける

 その教育法について、恐縮ながら僕自身の経験を重ねると、中学受験のための進学塾で3年間、国語の教師をしていたときの体験を思い出します。成績でいうと一番下、平均偏差値でいうと40くらいのクラスを担当していましたが、半年で60くらいまで伸びました。

 何をしたのかというと、2色のペンで丸をつけることです。そのクラスの生徒は最初、記述式の問題になると答えを書かずに白紙で提出するという状態でした。正答はとれないし自分が書いた答えを否定されることをいやがり、答案を書くこと自体にものすごいハードルを感じていました。

 そこで僕は模範解答に近い答えを書けていたら赤で丸をつけ、模範解答とは違うけれど、面白いと思う回答に緑で丸をつけました。緑の丸が“正解ではないけれど、個性的で面白い回答”であることを皆の前で周知させてみたら、だんだんとクラスの全員が記述式の回答を書くようになったんです。いきなり赤の丸はもらえないけれど、まず緑の丸をもらうために「とにかく答えを書く」という現象が起きたんですね。

 そうするとおのおのが、自分の意見をもてるようになりました。いきなり赤の丸をもらおうとするとどうしていいか分からないけど、まず緑の丸をとろうと自分の意見をもって、そこから僕が一般的な正解や模範解答を教えていくと、生徒たちの成績が伸びていきました。

phot 霜田氏は模範解答の赤丸だけではなく、「緑の丸」をつけることにした(写真提供:ゲッティイメージズ)

「世の中的な正解」と「個性としての面白さ」 両方に丸をつける

 赤は世の中の大多数的な正解で、個性としての面白さには緑の丸。その考えを下敷きにするとジャニーさんは両方の丸をつけ続けた人だったのではないでしょうか。世の中の正解としてのヒットも出したし、個性としての面白さも認め続けた。

 では実際にジャニー氏はどのような行動をしていたのか。具体的には4つあります。1つ目はジャニーズ事務所のカリキュラムであるダンスレッスンでのこと。専門の振付師の指導をうけて研修生はダンスをします。ジャニーさんは後ろから見ていて、ジュニアに声掛けをし、そのコミュニケーションのなかで子どもたちのやる気を出させていました。

 かつてはジュニアの研修生にAからEまでランク付けして、Aまでいくとテレビで先輩のバックで踊れる……といったかたちで段階をつけて切磋琢磨させていきました。

phot ジャニー氏は「世の中的な成功」をさせることと、「個性を生かす」ことを両立させた教育者だ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.