議員“マスク転売問題”から考える、転売ヤーの利益の源泉古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(1/2 ページ)

» 2020年03月13日 07時12分 公開
[古田拓也ITmedia]

 静岡県議会の諸田洋之議員が、オークションサイトでマスクを大量出品していたという問題が物議を醸している。同氏は3月9日までに888万円を売り上げたことを告白したが、その行為が「転売」にあたることについては最後まで否定した。これは政府が「マスクの買い占めや転売に罰則を設ける方針」を決定した矢先の出来事で、公の立場にある人物がこれに逆行するような行動をしていた点に批判が集中した。

 現在、同氏は出品こそ取りやめてはいるが、15日のマスク転売違法化の動きもあってか、オークションサイトでは在庫処分的な出品も目立つようになった。仮にマスクの転売が止んでも、今後も規制の手が及んでいない商品が次の転売ターゲットになる可能性がある。道徳観・倫理観からいえば、窮状につけこむような転売は許されない。しかし、なぜ転売は止まないのだろうか。

(写真提供:ゲッティイメージズ)

市場原理と道徳観の対立

 "転売ヤー”が転売を正当化する論拠は、「需要と供給のバランスが崩れた価格設定となっているため、市場原理に則って価格をさや寄せしているにすぎない」というものである。件の県議も「オークションの出品価格は1円からスタートしている」点や、「原価率は50%程度であり、暴利ではない」という点を強調し、「市場原理に任せた結果、高額になってしまった」という趣旨の主張をしている。

 確かに、この種の主張は道徳的な不快感こそ抱けども、資本主義における市場原理のもとではやむを得ない面があることも否定できない。現実に「市場価格よりも高く購入する者が存在する」という事実もある。他の分野でも、例えば、「一定の料金を払えば並ばずにアトラクションを楽しむことができるチケット」といった、どんな人でも公平に列に並ぶという道徳観を、市場原理で歪(ゆが)めているといえば歪めているような商品も世の中にはありふれている。

 しかし、マスクの製造業者や小売店のほとんどは、価格を上げず、過剰な需要を抑制し、供給量の確保に全力をあげている。そのような事実から考えれば、公共性や倫理観だけでなく、単純に経済合理性で考えても、必ずしも需給バランスの偏りを価格に上乗せすることが正しい戦略というわけではないことが分かる。

 それでは、このような状況下で値上げをするか、供給を確保して価格上昇を抑制するかのいずれが好ましいのだろうか。今回はプロスペクト理論から考えてみよう。

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