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「DXか死か」を迫られる自治体の現状――RPAへの“幻滅”が示す問題の本質とは?IT活用で変化する自治体の今(2/4 ページ)

» 2020年03月31日 08時00分 公開
[蒲原大輔ITmedia]

RPAへの「幻滅」が教えてくれる、問題の本質

 20年2月、ITアドバイザリー企業であるガートナー_ジャパンから「企業におけるRPAの推進状況に関する調査結果」が発表された。その報告によると「日本のRPAはハイプ・サイクルにおける『過度な期待』のピーク期を抜け、幻滅期の底に向かっている」と記載されている(※)。

 同調査は企業を対象にして行われたものであるものの、自治体から日々聞こえてくる声とも一致していると感じる。「幻滅」という表現はRPAに対する否定のように思われるかもしれないが、RPAに対する期待値の「修正」が進んでいると理解するのが適切だろうと筆者は考えている。

 役所視点でポジティブに捉えるならば、ツールありきの業務改革は成功しないという学びを得る「学習」のプロセスでもある。本章ではこの一連の流れを追うことで、自治体における業務プロセスの問題に光を当てる。

 RPAによる業務自動化に向き合うとき、直面する壁は業務プロセスにおける「紙」の多さである。行政は歴史的に典型的な官僚制組織であり、文書主義の原則によって組織を運営してきた。内部の意思決定においては、現在も多くの自治体で紙の稟議書に関係者が押印する形で決裁行為が行われている。電子決裁機能を持つ文書管理システムを導入している自治体においても、電子決裁と並行して紙での決裁プロセスを回すケースも多い。

 また、市民や法人が自治体に対して行政サービスの申請を行う場合も、今なお紙様式の提出を求められるケースが大半である。総務省「平成30年版情報通信白書」によれば、自治体が扱う行政手続のオンライン利用率は16年度で51.4%まで上昇したとされているが、これは図書館の図書貸し出し予約や、文化・スポーツ施設の利用予約など、総務省が「オンライン利用促進対象手続」に定めた手続のみを対象とした集計値だ。自治体の全ての手続を対象にすれば、そもそも申請方法が紙の提出しか用意されていないものも多いというのが実態である。

自動化を阻む「紙の壁」

 業務プロセスの入り口にあたる「申請・手続」が紙であるため、別のシステムや表計算ソフトへの転記が必然的に発生するが、RPAは紙の処理を自動化することができない。そのためOCRによって手書き文字をデジタル化した上でRPAの適用が検討されるが、OCRの識字率や処理スピード、コストの観点から断念され、結果的に人力による転記作業を引きずるケースが多い。

 さらに、紙がもたらす非効率は転記作業にとどまらない。転記をすることによってドキュメントが増殖するため、後の業務工程でドキュメント間の相互チェックが必要になる。

 例えば、住民から提出された申請書原本とシステムに記載した内容が一致しているかの確認であるが、このような作業も職員の目視によって行われるため、時間がかかる。文書管理規則に従ってキャビネットに紙文書を保管するための管理コストや、書類の探し物時間も増える。このように、自治体の業務プロセスの入り口である「申請・手続」が紙であることが、後の業務工程のさまざまなシーンで非効率を生む温床であることが分かるだろう。

 RPAに対する期待値の修正が進む背景は、この本質的な問題の解決、すなわち業務プロセス全体のデジタル化には“別のアプローチ”が必要であると、多くの自治体が気付き始めていることと表裏一体である。

(※)出典:ガートナープレスリリース 2020年2月21日「ガートナー、企業におけるRPAの推進状況に関する調査結果を発表」。ガートナーは、ガートナー・リサーチの発行物に掲載された特定のベンダー、製品またはサービスを推奨するものではありません。また、最高のレーティング又はその他の評価を得たベンダーのみを選択するようにテクノロジーユーザーに助言するものではありません。ガートナー・リサーチの発行物は、ガートナー・リサーチの見解を表したものであり、事実を表現したものではありません。ガートナーは、明示または黙示を問わず、本リサーチの商品性や特定目的への適合性を含め、一切の責任を負うものではありません。

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