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「DXか死か」を迫られる自治体の現状――RPAへの“幻滅”が示す問題の本質とは?IT活用で変化する自治体の今(3/4 ページ)

» 2020年03月31日 08時00分 公開
[蒲原大輔ITmedia]

ノーコード、ローコードは自治体とITの関係性を変えられるか

 業務のデジタル化を実現するソリューションとして、近年注目度が高まっているのがノーコード・ローコード製品群だ。ノーコード(No-Code)とは、手作業でのコーディングをせずにシステム開発ができるプラットフォームのこと。同様にローコード(Low-Code)は、わずかなコーディング作業のみでシステム開発ができるプラットフォームを指す。

 従来のシステム開発はプログラミングスキルを持つ人の専売特許であったが、ノーコード製品上ではドラッグ&ドロップのような直感的操作のみでシステム開発ができる。ガートナーが発表した「2020年の戦略的テクノロジー・トレンドのトップ10」においても、ノーコード・ローコード製品の進化に伴う市民開発(非エンジニアによるシステム開発)が加速していくと予測されている。

 民間企業で先行して進む「システム開発の民主化」ともいえる動きは、自治体とITの関係性を変容しうる。現在の自治体システムは「外注ありき」であり、それゆえに自治体職員にとってシステム投資は困難なものになっている。

 自治体の特徴は、業務の種類が膨大な数に上ることだ。特に基礎自治体は「ゆりかごから墓場まで」と形用されるように、住民の出生から死亡に至るまでのあらゆるシーンで行政サービスを提供する存在だからこそ業務も多岐にわたる。

 その上、住民ニーズの変化に合わせて弾力的に対応するため、新しい業務も年々増えていく。現場の職員目線に立てば、そのような環境であればこそITを活用して効率的に働きたいところだが、多くの場合新たなシステム投資は見送られる。その理由は次の2つだ。

 1つ目は、投資対効果が得られないこと。自治体には年間の処理件数が少ない業務が多い。例えば、筆者自身も品川区職員として、産業振興部門で中小企業を支援するための助成金制度を担当してきたが、各種助成金のうち申請が少ないもので年間数件、多いものでも30件程度であった。システム化によって投資対効果をプラスにするのは難しく、紙や表計算ソフトといった竹槍ともいえる装備で頑張ることになる。

 2つ目は、導入・改修サイクルのスピードが遅いことだ。自治体の予算ルールとして、前年度の9月〜11月ごろに各部門から予算要求し、翌年の4月に議会で議決されて初めて予算の執行が可能になる。

 そのように長い時間をかけて予算を確保し、入札やプロポーザル等の調達行為を経てシステムを発注することになるが、そのシステムを業務の変化に合わせて改修したい場合には、改めて予算要求から始めなくてはならない。業務改善のサイクルを素早く回したいが、システム側が足を引っ張ることになってしまう。

 ノーコード・ローコード製品は、職員によるシステム内製という新たな選択肢を提供し、これらの問題を解決する武器になりうる。ノーコード製品の多くはPaaS(Platform as a Service)として提供される。サブスクリプション型のライセンス形態で、契約プランの範囲内で自由にシステム開発を行える。職員がシステム開発する度に費用が発生するものではないため、従来はシステム投資の対象とし得なかった小規模業務も含めて、システム化の対象にすることができる。

 さらに、職員が自ら企画し、素早くシステム開発を始めることができ、業務改善サイクルの高速化をもたらす。ノーコード製品に期待される自治体とITの関係性変容とは、内製文化の醸成を通じて、「年単位の発注サイクル」を「高速の業務改善サイクル」に、「狭いシステム投資対象範囲」を「あらゆる業務のシステム化」に変えていくことである。自治体職員の装備をアップデートすることともいえるだろう。現に経済産業省や神戸市などで、ノーコード製品を用いたワークショップや勉強会が行われており、行政からの注目度も高まっている。

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