フィンテックで変わる財務

日本法人も始動 デジタル証券発行の先駆者、セキュリタイズとは何か(2/3 ページ)

» 2020年04月03日 10時25分 公開
[斎藤健二ITmedia]

STOの最大のメリットはコスト削減

 STOの最大のメリットはコスト面にある。資金調達は複雑で関係者が多く、時間もかかる。従来の資金調達の課題を、小林氏は次のように表現した。「従来の資金調達は、非効率的だ。仲介者がいろいろなところに存在している。決済までの時間が長い、データが証券会社や信託銀行などにあって連携していない。コンプライアンスの手間も多いし増えつつある。関係者が多いと調整が増えて時間がかかる。マッチングも難しい。それによってコストがかかってしまう」

 ブロックチェーンを使ったSTOでは、ブロックチェーン上でプログラムを動かすスマートコントラクトによって、これらをすっきりと解決できる。「初期調達のストラクチャリングコスト、配当などの処理コスト、所有者の変更記録コスト、償還時のコストなど、調達金額の数%くらいはかかっていたものを、減らすことができる」(小林氏)

 プログラムに基づいて動作するため透明性も高まり、流動性も確保できるといったメリットもある。

デジタル証券を使うことの利点(同社Webより)

 そして、「コストが下がることで、いままで割に合わなかったものの証券化が可能になる」(森田氏)のも、将来的な魅力だ。小さな資金調達や小口化は、コスト面から敬遠されがちだったが、STOでは可能になってくる。

ブロックチェーンの外にあるエコシステムと連携

 Securitizeの特徴は、ブロックチェーン上に作られた仕組みだけではない。STOを取り巻くさまざまな機能を、外部のサービスと連携して提供できる点にある。

 例えば、少数の投資家だけに社債を引受けてもらう私募債の例で見てみよう。これは引き受ける人数に制限があるのが特徴だ。森田氏は、こうした細かな制約がある場合でも、ブロックチェーンを使えばどのように効率化できるかをこう説明した。

 「まずブロックチェーン上で『何人までしか持てません』とプログラムされている。そして(外部のサービスなどで)KYC(本人確認)チェックを受けた人だけが取引できる形にプログラムする。ブロックチェーン上にはIDが記載され、保有するトークンの個数が分かるようになっている。ただし、KYCを行った個人のデータはブロックチェーン外のデーベースにあり、IDとひも付けて管理するため、もし一人で複数のIDを使っていても、個人としての保有数が分かる。発行体の許可を得て売買しなくても、KYCさえ行われていれば移転可能だし、(売却不可能な期間を定めた)ロックアップ期間や、国の規制もプログラム化できる」

 管理やコンプライアンスに関わる多くがスマートコントラクトで処理できるが、唯一従来の方式を取らざるを得ないのが決済だ。「現在、法定通貨での決済はどうしても銀行振り込みに頼らざるを得ない。決済のほか、配当支払いやセカンダリー(二次流通市場)でのDVP決済(証券の引き渡しと支払いの同時決済)には、ステーブルコインが重要だ」(森田氏)と、法定通貨と価値が連動するデジタル通貨への期待を示した。

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