コロナ対策「マスク郵送」は本当に麻生財務大臣への利益供与なのか古田拓也「今更聞けないお金とビジネス」(2/2 ページ)

» 2020年04月07日 07時00分 公開
[古田拓也ITmedia]
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「財務大臣」は「政府保有」という意味

 実は、上記3社の株式を財務大臣が保有する根拠は、各社の法律にある。例えば、NTTの根拠法となる「日本電信電話株式会社等に関する法律」第四条には、「政府は、常時、会社の発行済株式の総数の三分の一以上に当たる株式を保有していなければならない。」とある。「日本たばこ産業株式会社法」と「日本郵政株式会社法」の第二条にも「三分の一」の保有割合を常に維持しなければならない旨が規定されている。

 ほかにも、政府は非上場企業である東京メトロや成田空港、高速道路6社など、30社近い会社の株主でもある。そして、これらの株主も上記三社と同じく「財務大臣」である。

 これらの公益性が高く、政府の出資が入っている会社は特殊会社と呼ばれており、その設立には特別な法律が必要である。たとえ企業が民営化し、外部の株主を受け入れることとなっても、例えば外部の株主に3分の2を買収されてしまえば、即座に日本郵政の郵便事業を解体させることも理屈上は可能になってしまう。

 上記3社が3分の1以上の議決権を持たなければならないという規定の趣旨は、拒否権の確保にある。拒否権は、会社の解散や事業譲渡などといった、3分の2以上の賛成が必要な特別決議を単独で否決にすることができるという権利だ。3分の1以上という議決権割合は、経営の安全性を確保する上で重要なラインなのだ。

 財務大臣は、国の財務を担当する役職であることから、各種の法律で記載されている「政府」の役割として財務大臣が株式を保有しているに過ぎないことが分かるだろう。この場合、配当金は国庫に納付されることになり、麻生氏個人には振り込まれない。

「利益供与」という批判も完全に的外れではない?

 ここまで考えると、確かにマスクの郵送が麻生氏個人への利益供与ではないとしても、配当が国庫に納付されるのであれば「政府のお手盛り」という意味で、利益供与という批判も完全に的外れとはいえないのかもしれない。

 マスクの配送料を120円とおき、5000万世帯に郵送した場合を考えると、売上としては60億円になる。ここで日本郵政における2019年第3四半期決算を確認してみよう。同社の郵便事業の概要を確認すると、売上高が2兆1149億円であるのに対し、営業利益は1213億円となっている。ここから売上高営業利益率を算出すると5.73%となる。

 つまり、今回のマスク郵送の推定売上高60億円のうち、推定の営業利益は3.4億円程度となる。そのうち、いくらが配当に支払われるかを確認しよう。次に、日本郵政が稼いだ利益のうち、いくらを配当に回すかを表す指標である配当性向を見てみよう。同社のWebページを見ると、20年3月期の配当性向の予想値は48.1%となっていた。

 つまり、この度の郵送における推定の営業利益約3.4億円のうち約1.6億円程度が配当に回されることとなるだろう。政府が保有している株式は、全体の63.29%であることから、マスク郵送で国庫に支払われる推定の配当金は1億円程度になると予想される。

 このように考えると、政府は1枚あたり200円程度ともいわれている布マスクの推定調達費200億円に、郵送費60億円や人件費を出費していることになる。200〜300億円規模の出費に対して国に1億円程度の戻りが生じるという構図だ。

 全国津々浦々に安価でマスクを届けるには、やはり郵送網が最も綿密な日本郵政に頼るほかないだろう。余剰金の配当についても、法律で政府が一定の議決権を保持しなければならないことでシステム的に発生してしまうものだ。したがって、これをもって政府のお手盛りと批判するということもやや無理筋であるのかもしれない。

 そうすると本件は日本郵政の株主構成ではなく、「マスクの郵送がコストに見合う有効な施策であるのか」という点を議論する方がより建設的であるといえる。

筆者プロフィール:古田拓也 オコスモ代表/1級FP技能士

中央大学法学部卒業後、Fintechベンチャーに入社し、グループ証券会社の設立を支援した。現在は法人向け事業コンサルティングを行う傍ら、オコスモの代表としてメディア記事の執筆・監修を手掛けている。

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