未来の金融、グランドデザインが必要 Fintech協会理事インタビューフィンテックの今(2/4 ページ)

» 2020年04月14日 07時20分 公開
[中尚子ITmedia]

――フィンテックが台頭する中で、海外の各国はどのように対応しているのでしょうか。

落合 海外といっても国によって事情や対応は大きく異なります。例えば英国の場合、大手の金融機関が市場を寡占し、消費者からすれば、不当に高い手数料を取られているという状況があります。そこで、政府は競争政策的な視点も重視して銀行業のオープンバンキングを強く進めてきました。

 一方、オーストラリアは消費者の権利として“データのポータビリティー”を強く打ち出しています。これは金融に限らず、例えば、電力事業者に対しても、消費者がどういう風に電力を使ったかというデータを電子的に提供するように求めています。オーストラリアでは金融での取り組みをきっかけに、さまざまな他分野へとデータポータビリティーを進める方針が示されています。

 欧州も各国で方針が異なります。英国は競争政策としての意味合いが強いですが、他の国はそこまで競争政策的な意味合いが強くないように見えます。欧州全体としてみれば、欧州が一般データ保護規則(GDPR)の中でデータポータビリティーを打ち出している流れの中で、オーストラリアと同様に個人の権利重視の傾向と、オープンバンキングの動きに整合する部分がありそうです。

 一方、米国は企業の自主性に任せており、銀行の口座情報の消費者への提供について、欧州のような強制力を持った規制をしようとはしていません。

実店舗のキャッシュレス化に向けての世界各国の施策の比較。強制力を持つかどうかも含めて、対応方法は違う(野村総研作成の経産省資料より)

――各国はそれぞれ目指す方向性があるようですが、日本はどうですか。

落合 欧州は、巨大プラットフォームであるGAFAに対抗するためのグランドデザインを描いています。ITサービスに対する規制も比較的強く行う傾向があります。一方で、米国は企業の自主的な競争を重視しているので、敢えて政府が規制などで方向性を示すことはしません。

 では日本はどうかというと、金融をどう変えていくかというグランドデザインを明確に打ち出すことが必要だと感じています。確かにフィンテックサービスに対して銀行のシステムをつなぐオープンAPIなど、個別の施策には取り組んでいます。

 ただ、例えば「競争政策を通じて消費者の利便性を高めることを志向する」など、例えば英国のような明確な方向性を打ち出しているとはいえないでしょう。現在はあくまで、必要性に気づいたテーマごとに手を打っているという感じです。

 ただ、このような点は、日本では政府と民間とで連携して進めていくという第三の道を採るべきとも思いますので、政府の検討を期待するだけなく、Fintech協会などでも、今後のあるべき姿は提言をしていくことも求められると思います。

 19年以降はキャッシュレス化が進んでいますが、キャッシュレスはあくまで手段です。キャッシュレス化で電子取引が多くなり、取引のデータを活用できるようになります。そのデータをどう使うのか。社会のなかで金融取引、決済をどう位置付けるのか。証券や保険も含めて、どのような形で老後資産の形成やリスク管理をやっていくのか。こういったことに関するよりクリアな絵姿が必要と思いますので、今後はFintech協会でもこうした日本の金融が目指すべき方向を示していきたいと考えています。

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