新型コロナ対策108兆円が確実に「見掛け倒し」で終わる訳“いま”が分かるビジネス塾(2/3 ページ)

» 2020年04月14日 08時00分 公開
[加谷珪一ITmedia]

安倍首相が「108兆円」という数字にこだわる訳

 例えば、中小企業に対する納税や社会保険料の支払い猶予は金額的には26兆円とかなり大きいが、これは一時的に猶予されるだけなので、最終的に中小企業の負担が減るわけではない。また、資金繰り支援などには財政投融資が活用されるので、あくまで貸付けであって後で返済が求められることになる

photo 政府が発表した「新型コロナウイルス感染症緊急経済対策」(公式Webサイトから引用)

 さらに言うと108兆円の中には、今回の経済対策とは関係のない項目まで含まれている。108兆円のうち20兆円は、19年12月に閣議決定された26兆円分の経済対策のうち、まだ執行されていない分なので、コロナとはまったく無関係といってよい。3月までにまとめた緊急経済対策の第1弾と第2弾(2兆円)も、やはり108兆円の中に含まれている。

 そうなってくると、事業規模で108兆円といっても、実際に政府が支出する金額はかなり小さくなることが予想される。しかも困ったことに、どの項目にいくら支出するのか示されておらず、一体いくらの額がいつ何に支払われるのか誰も分からないのである。

 政府が発表した閣議決定の資料には、「国民の命と生活を守り抜く」「ありとあらゆる政策手段を総動員」「強靱な経済構造を構築」といった、情緒的、扇動的な文言が並んでいるのだが、肝心の支出細目は一切、記載されていない。

 財政の世界では、実際に政府が直接支出する金額のことを真水(まみず)と呼んでいるが、近いうちに確実に支出される真水の項目としては、世帯に対する30万円の給付金(4兆円)、中小企業やフリーランスに対する支給(2.3兆円)、感染拡大防止策2.5兆円くらいなので、わずか10兆円しかなく、感染拡大後の景気浮揚策などを合わせても、20兆円程度にとどまる可能性が高い。政府は財政投融資なども含めて約40兆円が真水であると説明しているが、実態とは大きく乖離している。

 安倍首相はGDPの2割という数字に強くこだわったと報道されているが、これは米国やドイツを強く意識したものだろう。必要な支援策を積み上げたのではなく、取りあえず「100兆円」という数字ありきで項目を作った可能性が高い。

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