多くの日本人が、ビジネスや旅行で中国を訪れるようになったが、中国で行列に関する問題は、最近はかなり減ったとはいえ、常にトラブルと隣り合わせだということを肝の銘じておきたい。
ひと昔前までの中国では、行列の場は戦場そのものであった。とくにひどかったのは、鉄道駅の中長距離切符売り場である。行列というより人の輪に近く、割り込みなどは当たり前。おとなしく待っていたのでは一向に窓口に近づけず、発車時間までに切符を購入するためには、わずかな隙間を突破口として割り込み、全身をフルに使って他人を押しのけねばならなかった。
近年こうした光景が見られなくなったのは、長年に及ぶ礼儀向上キャンペーンのたまものというより、ネットによる事前予約・購入、オンライン決済の普及に加え、割り込みできず、並ばざるを得ぬようにと鉄棒による仕切りを設ける駅が増えたからで、人気観光施設の入場券売り場でも同様の仕組みを取り入れるところが増えている。それで完璧かといえば、それならそれで進退の自由がままならないから、別の問題が生じる。筆者は以前、北京の故宮博物院でそれを体験した。
故宮は明・清王朝時代に宮廷として使用され見どころが多いため、北京市内でもっとも多くの観光客が訪れるところでもある。国内観光客のなかには、国際ルールはおろか、都会のルールさえ知らない多くの地方出身者もいる。
「郷に入れば郷にした従え」という格言があるが、中国の地方出身者には全く通用しない。切符を買うことなく入場口に並び、切符がなければ通せないと言われれば、代表を選んで買いに行かせ、戻ってくるまで道をふさぎ、後ろに並んでいる他のグループを通せんぼし続ける。道を譲るよう注意しても馬耳東風(ばじとうふう)だ。繰り返し注意すると、逆切れされて険悪な空気になる。
結局、左右にも前後にも動けないまま待つことになる。その間に激しい通り雨にもあったせいで、全身がびしょぬれ。親子で来ていた日本人の多くは、入場するや子どもに風邪をひかせてはならないとTシャツを買い求めて着替えをさせたから、観光に割く時間などあるものではない。日本人から不平の声が挙がることしきりだった。
半世紀ほど前には、欧米で日本人観光客のマナーの悪さが問題になったことがある。なかには主要観光施設から締め出しをくらった人もいると聞く。それからすれば、中国人の行列時のマナーの悪さをとやかくいえるものではないが、今でも中国人の行列の光景を見かけると、ある種の恐怖さえ感じるときがある。
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