3月には全国の学校が休校になったが、日本人のインフォデミック(情報の伝染)は情けないレベルと言うほかない。1月下旬には「中国人が日本の健康保険に悪乗り」という情報が流れ、「中国が新型肺炎を『日本肺炎』と命名」といった情報も拡散された。
よくよく考えれば、観光による在留資格では国民健康保険の利用はできないのだから、前者はありえないことである。後者も中国大使館が在日中国人向けに発した情報の明らかな誤読である。だが、それにもまして情けないレベルなのは、日本人によるトイレットペーパーの買い占め騒動だろう。
「トイレットペーパーはマスクと同じ原料」「安いものは何でもメイド・イン・チャイナ」といった思い込みが騒動の一因となったようだが、まずその認識からしてあらためなければならないだろう。商品には必ず生産地を記したラベルなりシールがついているわけで、ふだん買い物をしていて見ていれば分かるはずだ。
今回のマスク騒動では、活字離れと並行するかのように、日本人の情報収集力と分析力は確実に落ちていることがうかがえる。ピンポイントの情報にしか目がいかないため、本当に必要な情報に接するのがどうしても遅くなってしまうのだ。
同じことは中国ビジネスを展開する日本企業にもあてはまる。海外のどこにいようと、テレビで見るのはNHKの国際放送だけ。現地の新聞や現地の人が発したSNS上の情報は現地採用の日本語のできる人間が入手するのみ。それも積極的に引き出すのではなく、何事であれ受け身に終始していては、商機も危機の兆候も見逃すことは避けられない。
中国ビジネスに手を染めるのであれば、情報の収集力と分析力が欠かせない。一番いいのは何気ない情報でもまめに教えてくれるネイティブの知り合いを持つことだ。よほど中国語に通じていれば別だが、そのレベルに達していない人間が自分でSNS上から情報を的確に拾うのは不可能に近い。
本当にリスクを回避したいのであれば、自分も心を開き、他人を受け入れる努力をしなければならない。今回の「マスク狂騒曲」はそんなことを示唆しているのではないだろうか。
島崎 晋(しまざき すすむ)
1963年、東京都生まれ。歴史作家。立教大学文学部史学科卒業(東洋史学専攻)。大学在学中に、立教大学と交流のある中華人民共和国山西大学(山西省太原市)への留学経験をもつ。著書に『目からウロコの世界史』『目からウロコの東洋史』『世界の美女と悪女がよくわかる本』(PHP研究所)、『さかのぼるとよくわかる世界の宗教紛争』(廣済堂出版)、『一気に同時読み!世界史までわかる日本史』(SB新書)など多数
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