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ロイヤルリムジン「乗務員600人全員解雇」で広がる波紋 単なるブラック企業か、それとも経営者の「英断」か雇用保険手当の「不正受給」となる可能性も(4/4 ページ)

» 2020年04月23日 05時00分 公開
[新田龍ITmedia]
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緊急事態に合わせた特例が必要

 その後の報道では、会社側の方針に「説明が十分ではない」と納得していない乗務員も一部おり、彼らは社外の個人加盟できる労働組合に参加し、会社側に団体交渉を申し入れたという。

 法律通りに解釈すれば、会社側が解雇に際して乗務員と「再雇用を確約した契約」を結んでしまうと失業保険の受給資格は得られないし、一方で「再雇用は単なる口約束」となると、今後の状況次第では反故(ほご)になってしまうかもしれない。いずれにしても、乗務員側に不利な話となってしまうわけだ。

 ちなみに過去、まさにこのような形で失業手当を「特例」で受給できる措置がとられたことがある。それは東日本大震災のときであった。「災害時における雇用保険の特例措置」として「事業所が災害を受けたことにより休止・廃止したために、休業を余儀なくされ、賃金を受けることができない方については、実際に離職していなくとも失業給付(雇用保険の基本手当)を受給することができます」「災害救助法の指定地域にある事業所が、災害により事業を休止・廃止したために、一時的に離職を余儀なくされた方については、事業再開後の再雇用が予定されている場合であっても、失業給付を受給できます」と定めたのだ。

厚生労働省「東日本大震災に伴う雇用保険失業給付の特例措置について」

 ロイヤルリムジンの判断は、先が見えない状況の中、現時点でとれるギリギリの手段だったといえるし、乗務員にとっては、いきなり倒産するよりはよかったのかもしれない。ただ、ほぼ事業停止状態でありながらも借入を起こしたり、経営者が自己資金を投入したりして、辛うじて休業手当を払っている事業者も多数ある中で、整理解雇の要件を完全に無視するかのような事案がここまで支持されていることについては複雑な思いを抱いてしまうのもまた事実。今後はこのようなケースが増え、基準が見直されたり、特例措置が実施されたりしていくことになるだろう。

著者プロフィール・新田龍(にったりょう)

働き方改革総合研究所株式会社 代表取締役/ブラック企業アナリスト

早稲田大学卒業後、複数の上場企業で事業企画、営業管理職、コンサルタント、人事採用担当職などを歴任。2007年、働き方改革総合研究所株式会社設立。労働環境改善による企業価値向上のコンサルティングと、ブラック企業/ブラック社員関連のトラブル解決を手掛ける。またTV、新聞など各種メディアでもコメント。著書に「ワタミの失敗〜『善意の会社』がブラック企業と呼ばれた構造」(KADOKAWA)他多数。


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