クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向
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» 2020年05月11日 07時10分 公開

池田直渡「週刊モータージャーナル」:ターボの時代  いまさら聞けない自動車の動力源 ICE編 4 (3/3)

[池田直渡,ITmedia]
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ターボの技術

 さて、話を本題に戻そう。ターボチャージャーは日本語では過給機と表記される。元はといえば、気圧が低い高高度で、エンジン出力の低下を補うために生まれた航空エンジン用の技術だ。

 排気ガスでタービンを回し、同軸でつながった対のタービンで吸気を強制的にエンジンに押し込む。ICE編を通じて何度か書いてきた通り、空気と燃料の適正比率は決まっているから、エンジンに燃料だけ過剰に供給しても燃えない。つまり出力は出ない。特に排ガス対策のためには、この空気と燃料の比率を理論空燃比(重量比14.7:1)に整えることが必須である。

 逆にいえば、燃料をたくさん燃やして大出力が得たいのであれば、空気を余分に押し込む仕組みがどうしても必要なのだ。要するにターボは、基本的に擬似的に大排気量化を図る仕組みである。なので、例えばL20ET型の2リッターターボエンジンは、L20E型の2リッターの無過給エンジンよりは燃費が悪くなる。

日産のL20ET型の2リッターターボエンジン

 ただし、見方を変えると様子が違ってくる。同じ出力のエンジンで比べれば、無過給エンジンより過給エンジンは排気量が少ない。エンジンは動的部品の塊なので、排気量が少ない分、それらの部品の重量が減り、結果燃費が良くなるという考え方もできる。のちに、この考え方をさらに推し進めたダウンサイジングターボが一つのブームとなるのだが、それはまだ先の話である。

 さて、ターボにとって一番怖いのはノッキングだ。そもそも内燃機関の特性として、予圧縮が高ければ高いほど熱効率が上がって馬力も出るが、一定以上に予圧縮を上げると、ノッキングが起きてしまう。ターボはそもそもの空気が圧縮されて押し込まれているので、ノッキングが起きる可能性が高い。ただし、ノッキングはのべつ幕なしに起きるわけではないから、条件が良い時は存分に空気と燃料を押し込んで高出力を得ることができる。問題は、低回転高負荷などノッキングを起こしやすい状況をどうやって回避するかだ。前回触れたノックセンサーとタイミングリタード(遅角)の技術がここでも生きてくる。

 ノッキングは、圧縮後点火プラグが着火した燃料が燃え広がる途中で起こる。混合気がプラグ付近で火球になって膨張し、周囲の混合気をさらに圧縮する。燃え広がると共に残った混合気は加速度的に圧縮され、通常の燃焼を超えて爆轟(ばぐごう、燃焼速度が速くなり過ぎて衝撃波が発生すること)に至り、この時に発生した衝撃波によって、燃焼室をカバーする境界層を破壊してしまうことが問題なのだ。

 熱い風呂に入ってもじっとしていれば耐えられるが、お湯をかき混ぜられると熱い。これが境界層で、体の周りに低温の層ができているのに、かき混ぜたことによってその層が壊れるから熱くなるのだ。エンジンも同じで、燃焼室の壁沿いにできている低温の境界層が破壊されると、高温の燃焼ガスで金属が溶けてしまう。

 だからこれを避けるために、ノックセンサーでノッキングを検知して、点火タイミングを遅らせることで、実効圧縮比を下げ、爆轟に至らせないようにコントロールするのである。

 ガソリンエンジンを技術史として捉えた場合、排ガス対策は「いかに正確な空燃比を実現するか」の戦いであったし、80年代の高出力化は、高圧縮比へのトライアルであった。それは自然吸気であろうとターボであろうと変わらない。

 そして90年くらいから、より低燃費を目指すリーンバーンへの挑戦が始まるのだが、それはまた次回。

筆者プロフィール:池田直渡(いけだなおと)

1965年神奈川県生まれ。1988年企画室ネコ(現ネコ・パブリッシング)入社。取次営業、自動車雑誌(カー・マガジン、オートメンテナンス、オートカー・ジャパン)の編集、イベント事業などを担当。2006年に退社後スパイス コミニケーションズでビジネスニュースサイト「PRONWEB Watch」編集長に就任。2008年に退社。

 以後、編集プロダクション、グラニテを設立し、クルマのメカニズムと開発思想や社会情勢の結びつきに着目して執筆活動を行う。コメント欄やSNSなどで見かけた気に入った質問には、noteで回答を行っている。


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