クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

53年排ガス規制との戦い いまさら聞けない自動車の動力源 ICE編 2池田直渡「週刊モータージャーナル」(1/5 ページ)

» 2020年03月16日 07時10分 公開
[池田直渡ITmedia]

 さて前回の記事では、パワーを上げるには予圧縮を高めるほどいいのだが、上げすぎるとノッキングが発生してしまうこと。そして空燃比を理想値に近づけないと、排気ガスがキレイにならないという燃焼の根本の話をまとめた。燃焼をいかに理想的にしつつ、パワーを上げる(つまり熱効率を上げる)か。そしてそれと両立させつつ、排気ガスをいかにキレイにしていくかが、現在のICE(Internal Combustion Engine:内燃機関)の課題というところまで解説した。

 今回はガソリンエンジンに話題を絞って、熱効率の改善と排ガス浄化がどう進んでいったかの話をしよう。まずは、そうした問題が社会で重要視されるまでは、どんなやり方だったのかというところから始めたい。

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ICEの得意な回転領域は限られる

 エンジン(ICE)という機械は、空気を吸い込み圧縮するポンプとしての側面を持っている。タービンのように連続的かつ一定速度で空気を吸い込むのならいいのだが、所詮(しょせん)はピストンの往復なので、吸気の流れは断続的になる。

 ということは、吸気管の中で空気の流れは速度が速くなったり遅くなったりする。そのとき空気はどうなるか? 注射器の先を塞いで押してみると分かるが、空気はバネのようなものなので、流速が変わると疎密波が発生する。密の部分は当然密度が高く、疎の部分は密度が低い。空気をいっぱい取り込みたいエンジンは、当然「密」の波が来たところで弁を閉じたい。そうすれば天然のターボチャージャーになるからだ。

 では、それを決める要素で一番大きいのは何かといえば、吸気管の長さである。そいつをベストにチューニングしてくれとエンジニアにいえば、「で、何回転の時に合わせりゃいいんですか?」と聞かれてしまう。基本的にこういうバネの振動は周波数があるので、どんな回転でもベストというのは物理的に無理なのだ。

 だから本当は、エンジンはフレキシブルに回転を変えて使う機械ではない。例えば、飛行機の場合、定格速度で回して、プロペラの羽の角度の方を変えて使うことが基本になっている。アイドリングからレッドゾーンまで全部の回転域を使おうなどという無茶をやっているのは、クルマやバイクを中心にした動輪で走るものだけだ。

 つまりあらゆる回転域を使おうとするならば、原理的にはモーターの方がよっぽど優れている。定格運転が得意なエンジンという機械を、無理やりフレキシブルに使うために、まずは、変速機という仕掛けを使って、できる限り、エンジンの条件の良いところを使ってやるようにしたのだ。パワーバンド云々(うんぬん)というのはそういうことだ。

 ひとまず、エンジンはオールマイティにどの回転数でも任せておけという機械ではないということだけ覚えておいてほしい。空気のばね的特性、つまり疎密波の共振あるいは共鳴を上手く使った吸排気系の設計が後にどんどん発達して、エンジン出力が上がっていく。しかしそれはまた後の話だ。ひとまず得意な回転領域は限られるということだけ理解してもらえればいい。

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