クルマはどう進化する? 新車から読み解く業界動向

ターボの時代  いまさら聞けない自動車の動力源 ICE編 4池田直渡「週刊モータージャーナル」(2/3 ページ)

» 2020年05月11日 07時10分 公開
[池田直渡ITmedia]

クルマとユーザーの蜜月時代

 さて、しかし幸いにも今回のテーマはそういうチャレンジに成功して、ボーナスステージで躍進した話だ。

 排ガス規制で動力性能を失った反動で、パワー競争の時代が始まる。昭和53年は西暦では1978年。そのたった2年後の80年に、日産は一気にターボ攻勢に入る。セドリック/グロリアにブルーバードが続き、本命のスカイラインにもターボモデルが追加された。

スカイラインターボ

 当時の日産を代表する6気筒エンジンである、L20型の馬力変遷を見てみるとよく分かる。排ガス規制時のL20は、2リッターの排気量を持ちながら、キャブ仕様ではわずか115馬力。インジェクションで130馬力。これがターボモデルでは145馬力へと向上する。

 ことのついでに、パワー競争がどんな勢いで進んだかも押さえておこう。トヨタ・ソアラの登場が81年で2.8リッター170馬力。そこから3年間は怒涛の勢いで出力値が上がり、200馬力級がゴロゴロ登場するとともに、日産マーチやトヨタ・スターレット、ホンダ・シティなどのコンパクトモデルにもターボモデルが追加されて、馬力がインフレを起こしていく。

 そうした過当競争によって、あっという間に差別化としての馬力の価値が失われて、87年には日産のBe-1の登場に代表されるパイクカーブームが到来する。自動車はファッション化して、クルマの価値の再検討が始まった。

 そうして自動車の総合的価値が見直された結果、89年と90年が日本車のビンテージイヤーとなって、世界に新たな価値を提供した。日産スカイラインGT-R(32型)、トヨタ・セルシオ(初代)、ユーノス・ロードスター(初代)、ホンダNSX(初代)、日産プリメーラ(初代)、スバル・レガシィ(初代)など、ただパワフルなだけではなく、ハンドリングやパッケージング、快適性の向上など、総合的なクルマの性能が引き上げられたのである。

 例えば日産には「90年にハンドリング世界一を目指す」ことを掲げた「901計画」があり、GT-Rやプリメーラはその成果である。プリメーラの方は、客室を前に出して、エンジンルームを削るという、「フォルクスワーゲン・ゴルフ以来の効率的パッケージング」を、Dセグメントで初めてスタイリッシュにまとめてみせたパッケージ革新の突破者でもあった。ロードスターとNSXは、ホンダS800やトヨタ・スポーツ800以来、長らく日本の量産車に絶えていた本格スポーツカーのジャンルへ踏み出した。質的にも量的にも大きな結実の時代である。

日産Be-1(左)とホンダNSX(右)

 これをリアルタイムで見ることができた筆者は幸せな世代で、おそらくは78年から90年までが日本におけるクルマとユーザーの蜜月期だったのだと思う。

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