連載第1回では、自治体が歩み始めたデジタルトランスフォーメーション(DX)の紆余曲折と現在地について概観した。第2回、第3回では、先進的な取り組みを進める自治体の事例を詳細に追うことで、自治体のDX成功に必要なエッセンスの抽出を試みたい。
今回取り上げるのは、スタートアップとの協働による地域課題解決への取り組みで知られる神戸市だ。神戸市にフォーカスする理由は、業務デジタル化の手法として、ローコード開発ツールを用いた内製文化の醸成にチャレンジしているためである。
前回も言及したように、従来の自治体におけるシステム調達は予算要求作業、ベンダーとの仕様書の調整、入札など多くのステップを経て行われるため、時間と費用がかかるものであったが、神戸市は現場の職員が次々と業務改善のためのシステムを作成するようになった。
とはいえ、神戸市は職員数が2万人を超える。これだけ規模の大きい組織において、内製文化を育て、定着させていくためにはどのようなアクションが必要なのか、神戸市が積み上げてきた取り組みからエッセンスを抽出したい。
神戸市がここまで進めてきた取り組みを概観すると、大きく以下の3つのフェーズに分けることができる。
それぞれのフェーズごとにクリアすべき課題は変わっていく中で、適宜必要なアクションを取って進めている。順に見ていこう。
まずは第一のフェーズ「ビジョンと体制づくり」だ。神戸市は2017年6月29日に「『働き方改革』神戸市が本気で進めます〜推進チームの結成、民間から専門官を登用〜」と題したプレスリリースを出し、職員のワークライフバランス実現と業務におけるイノベーションを創出することを宣言した。このように対外的にビジョンを発信することは、庁内に対しても取り組みの本気度を示すことになる。
体制としては、職員部・行政経営を所管する行財政局と、庁内のICT環境整備を統括する企画調整局が「働き方改革推進チーム」を結成。さらに、ICTを用いた業務改革を所管する情報化戦略部には、高いスキルを持つ民間人材をICT業務改革専門官として登用して体制を強化している。
なお、本稿では働き方改革推進チームの中でも、ICT活用促進のミッションを持つ企画調整局情報化戦略部の活動にフォーカスしたい。
神戸市を含め、業務改革に成功している自治体に共通する点として、現場の業務改革を支援する専門の部署や担当者が存在する。一方で、超過勤務時間の削減率や、人員の削減数などの目標だけを指示する、昔ながらの「シーリング」と呼ばれる手法を業務改革にも使っている自治体は、軒並み失敗している。
いわゆるサービス残業を重ねて、名目上の超過勤務時間を目標値未満に抑え込むような例も、残念ながら今なお存在する。一定の時刻になるとPCを強制的にシャットダウンするような策も、対症療法であり本質的な業務改善に向けた投資とはいえないだろう。
ICTを活用した業務改革に取り組もうと思えば、相応の時間投資が求められる。現場部門の多くは時間的な余裕が無い上に、ICTによる業務改善の経験・ノウハウを持っていない。そのため、業務改革を支援する専門チームが伴走し、プロジェクトの進行管理やノウハウの提供を行っていくことが欠かせない。
また、神戸市は民間人材の活用に成功しているが、そこには民間人材がその能力を十分に発揮できるような状況を、受入部署の課長が率先して作ったことも外せない要因だ。ICT業務改革専門官に対し、予算の決まり方など行政特有のルールをインプットしたり、クラウド活用の必要性を認識して、専門官と一緒に部内の説得や部外の調整にも奔走したりと、さまざまな面でサポートを行っている。外部人材を登用しても庁内の協力を得られずに成果を出せないケースは多いが、神戸市では管理職が専門官の活動を支援することで関係部署を巻き込んだ取り組みを実現している。
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