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» 2020年05月28日 18時13分 公開

IT業界の「多重下請け地獄」が横行し続ける真の理由「IT後進国ニッポン」の病巣に迫る【前編】(3/4 ページ)

[田中圭太郎,ITmedia]

日本では優秀なエンジニアが育たない

――日本のIT業界に対して危機感を抱いていることが大きく2点あると話していましたが、多重下請け構造によって正しい手法でソフトウェア開発が行われていないことと、もう1点はどのようなことでしょうか。

高井氏:多重下請け構造が出来上がっているために、日本では優秀なエンジニアが育たないことです。

 どういうことかと言いますと、まず1次請けの大手企業が仕事を受注し要件を取りまとめ、開発は2次請け以降にまわします。1次請けの会社にはエンジニアはいません。実際にプロジェクトを実行するのは2次請けです。売り上げで言えば、100億円以上で数千億円未満といった規模の企業ですね。

――2次請けの企業には、エンジニアがいるのですか。

高井氏:2次請けの企業はエンジニアを抱えています。ただ、メインの仕事はプロジェクトを管理することなので、プロジェクトマネジャーです。この人たちは30歳くらいまではプログラミングをしています。しかし、それだけの経験で開発ができるわけではありません。

 メインのプログラマーは3次請けの会社にいて、その人たちが2次請けが管理するプロジェクトに委任契約という形で送り込まれます。

 さらに、3次請けの企業に所属するプログラマーが全員プロジェクトでいなくなって足りなくなると、4次請け以降から借りてきます。4次請けから下が何層になっているのかは分かりません。好景気になると層が増えていきます。

――何層になっているのか分からないと言っても、限度がありますよね。

高井氏:プログラマーがぎりぎり生活できる水準まで、下請けの層は増えていくのではないでしょうか。システム業界では、1日8時間、1カ月に20日作業してこなせる仕事量を1人月と言います。

 人月単価は1次請けが150〜300万円、2次請けが80〜120万円、3次請けが50〜70万円くらいでしょうか。4次請けから下は、1〜5万円ずつ引かれていきます。

 2次請け以上を主な売り上げとして計上できる企業は数%しかありません。私の認識では2%もないはず。これは10年以上変わっていないですね。一方で、業界全体としては2万社あります。私がこの業界に入った15年前は1万3000社から1万4000社でしたから、3次請け以下が増えています。参入障壁が低く、設備投資をする必要がないし、エンジニアを出向させておけばとりあえず儲かるので、どんどん増えるんですよ。

phot 下請けになればなるほど単価が下がっていく

――エンジニア自体は、どれくらいの人数がいるのでしょうか。

高井氏:エンジニアは日本には約90万人います。そのうち15万人はベンチャー企業に在籍しています。この人たちは優秀な人が多いです。残りの75万人のうち、おそらく90%以上が、3次請けから下の企業にいるのではないでしょうか。

 ということは、3次請けにいる優秀なエンジニアでようやく月に70万円です。それでも会社が利益をとって、さらに社会保険などを引くと、実際にエンジニアが手にするのは55万円くらい。この人たちがエンジニアのアッパー層です。

phot 業界の構造図。2次請け以上を主な売り上げとして計上できる企業は1〜2%しかない

――3次請け以降で働くエンジニアは、仕事のスキルが上がって、給料が上がるということはないのでしょうか。

高井氏:多重下請け構造による開発手法は、上から順番に作っていくウォーターフォール開発になるのですが、その場合、3次請け以降の仕事は「部品作り」になります。そのため優秀なエンジニアが育つことはほぼありません。システム開発を冷蔵庫作りに例えると、下請けのエンジニアは冷蔵庫を作っているのではなくて、冷蔵庫の部品であるネジを作っています。だから、アジャイル開発にも対応できません。

 さらに、もっと深い層の下請けでは求人を出しても人が来ないので、職業訓練が終わったばかりの人や、ついこの間までラーメン屋で働いていた人でもどんどん雇います。経験のない人がどんどんエンジニアになっていきます。それが実態ですね。

phot 上流には管理者や、管理業務がメインとなってしまっているエンジニアしかいない

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