新型コロナウイルスの感染拡大や、政府による緊急事態宣言などの影響を受けて、多くの企業が中途採用の求人を減らし始めている。IT業界でも今後エンジニアの中途採用の規模縮小が心配される。業界で常態化している多重下請け構造のもとで、業務委託や派遣社員のエンジニアの人数を減らす企業が増えていくことも十分考えられる。
業界の多重下請け構造にはさまざまな問題があるとして、構造改革に取り組んでいるのが、東京都渋谷区に本社がある情報戦略テクノロジーだ。企業の事業部門と直接ビジネスをする「0次請け」と、エンジニアのスキルシートの統一化を進めている。
同社の高井淳社長は、IT業界の1次請けから3次請けまでのビジネスを経験。「構造改革をしなければ日本のソフトウェア開発の技術向上も、エンジニアの育成もできない」と訴える。日本のIT業界の課題と、高井社長が取り組む改革についてのインタビューを前後編の2回にわたってお伝えする。
前編では高井社長にソフトウェア業界やシステム開発の問題点について聞いた。
――日本のIT業界は、多重下請け構造によるさまざまな問題が指摘されています。高井社長が危機感を抱いていることを具体的に伺えますか。
高井氏:大きく2点あります。1点目は、多重下請け構造によって、正しい手法でソフトウェアの開発がされていないことです。
ソフトウェアの開発は、米国のシリコンバレーなどではアジャイルという方式で行われています。エンジニアが企画者や実際に使う人と直接コミュニケーションを取りながら開発する方法です。中国もそうですね。この方法によって、新しいサービスが米国や中国から次々と生み出されています。
それに対して、日本の開発の多くはウォーターフォール方式です。工程別に分けて、モジュールごとに開発します。開発部分を多重下請けで働く人たちが担っています。
――ウォーターフォール方式だと、なぜよくないのでしょうか。
高井氏:私はいつも、システム開発はお絵描きと同じだと表現しています。あなたの好みの女性像を私が描く場合に、ウォーターフォール方式だとまずヒアリングをします。そのヒアリングした文字情報をもとに専門家に描かせて、出来上がったら見せます。これでイメージ通りの絵ができているでしょうか。
――それは難しそうですね。
高井氏:そうですよね。これがアジャイル方式だと、「目の大きさはこれくらいですか」「髪の毛の長さは」「髪の毛の色は」と聞きながら、同時に見せながら描いていきます。小さいパーツの確認も取りながら、全体像も見てもらう。シリコンバレーや中国ではこのようにして開発が実行されているのです。
――アジャイル的な開発が日本で浸透しないのは、どこに原因があるのでしょうか。
高井氏:一番大きな原因は、雇用規制があるからだと思います。システム開発は、開発をしているときと、運用・保守をしているときとでは必要な人数もスキルも違います。欧米では開発を早く済ませることによってクビになります。クビになるという言い方はよくないですが、いいものを早く作った人は、次の職場にもっといい条件で移ることができるのです。
日本の場合は、雇用規制があることで解雇できません。社内のシステム開発の本来の目的は、自動化を進めて仕事をなくすことです。でもこの人たちや、開発によって仕事を失う人たちのことを配慮しなくてはいけません。そのためウォーターフォール方式にならざるを得ないのです。
Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.