コロナ対策、現地日本人が「中国は安全」と思えるこれだけの根拠浦上早苗「中国式ニューエコノミー」(4/4 ページ)

» 2020年05月29日 07時00分 公開
[浦上早苗ITmedia]
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【大連】外部から来た人はすぐ取り囲まれる

 日中で食品メーカーを経営し、月の半分を家族のいる大連で過ごす松井健一さんは、「大連は5月中旬に学校の登校が再開され、一気に日常が戻ってきたように感じている。これで気分もだいぶ緩むんじゃないのかな」と語った。

 松井さんは、2月に一旦2人の娘とともに日本へ帰国し、3月には数週間香港へ滞在、同月下旬に大連に戻ったため、複数の地域の感染症対策や雰囲気を体験した。そのうえで「中国の発表は信じられないという日本人が多いですが、感染者数については隠ぺいはないと思う」と語り、理由をこう説明した。

香港から大連へ戻る途中、上海で止められPCR検査を受ける松井さん(松井さん家族撮影)

 「住宅街の責任者や警備員は、外部の人間をものすごく警戒していて、スーツケースを持って歩いてたら、消毒液を持った人たちにすぐに取り囲まれる。感染者が出た建物には防護服姿の人が大勢やってきて消毒し、一帯が封鎖される。その状況はすぐにSNSで拡散するから隠しようがない」

上海で隔離施設へ移送されたとき、周囲の人は防護服だらけ(松井さん撮影)

日本は今のうちに第2波対策を

 中国に続いて、日本も恐る恐るではあるが経済活動へのアクセルを踏んだ。緊急事態宣言の解除が適切と思うか尋ねたところ、松井さんは、「2月、3月ごろは、対策が緩すぎる日本を見てニューヨークみたいになるのではと心配でした。けれど、このまま爆発せずに終わりそうで、すごいなあと思っています。国民が頑張ったのか、運がよかったのか理由が分かりませんけどね」と答えた。

 北京の山内さんは、日中のムードの違いを指摘する。「日本の人たちは自粛がつらそうでしたが、中国人の多くは感染を本当に怖がっていて、自主的に引きこもりました。そもそも政府の言うことを信じていないから、政府が『大丈夫』と言っても簡単には出て行かない」谷村さん、木村さん、落合さんは「日本は感染ルートが追い切れていないことが、不安材料だと思う」と声をそろえる。

 谷村さんは「(緊急事態宣言を)解除する前に、感染経路を追跡できる仕組みの構築が必要だったのではないか。他国が感染者を抑え込めているのは、ITを活用した仕組みで感染者を追えていたからでもあります。日本も今のうちに第2波に備えた対策をするべき」と話した。

新著「新型コロナVS中国14億人」

 世界で500万人以上が感染し、経済を麻痺させた新型コロナウイルスの第一報は、2019年12月31日、ごくごく小さなニュースとして報じられた。日本でも2020年1月16日に最初の感染者が確認されたと発表されたが、その時にリーマンショックを超える経済危機をもたらす歴史的な感染症になると想像できた人はどれだけいるだろうか。

 中国に続いて、イタリア、ニューヨークとパンデミックが発生し、日本でもクルーズ船での大規模感染が起きた。中国はAIや5Gなど最先端技術を駆使し、さらには強権も発動して感染を徐々に抑え込んでいったが、日本メディアの報道は「感染拡大国の悲惨な状況」と、「給付金」「PCR検査」「経済補償」など自国の対策に集中し、14億人の中国人がどのように未知なるウイルスと対峙したか、実態はほとんど知られていない。

 新著「新型コロナVS中国14億人」では、武漢のパンデミックと医療崩壊に、専門家とテクノロジー企業がどう対処したか、そして現地に住む人々がコロナ下でどのような生活を送り、何を感じたのかを取材し、ドキュメント形式で紹介している。

 新型コロナの影響で米中関係は悪化の一途をたどっているが、一方で新興国や欧州の一部の国家は、中国の技術支援や医療物資の供給を受け、中国との関係を深めている。「コロナ後」の世界で日本がどうポジションを築いていくか考える上でも、中国の動きから目を離すべきではない。

筆者:浦上 早苗

早稲田大学政治経済学部卒。西日本新聞社を経て、中国・大連に国費博士留学および少数民族向けの大学で講師。2016年夏以降東京で、執筆、翻訳、教育などを行う。法政大学MBA兼任講師(コミュニケーション・マネジメント)。帰国して日本語教師と通訳案内士の資格も取得。
最新刊は、「新型コロナ VS 中国14億人」(小学館新書)。twitter:sanadi37

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