ジャッキーは国家安全法支持 安定か混乱か、“ビジネスしやすい”香港はどうなるのか世界を読み解くニュース・サロン(4/4 ページ)

» 2020年06月04日 07時00分 公開
[山田敏弘ITmedia]
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米国は香港の優遇措置を廃止に?

 こうした香港における中国の動きについて、欧米側は一斉に不快感を露(あら)わにしている。トランプは香港に与えている優遇措置を廃止する可能性を示唆し、さらに対中措置を発表するとしている。貿易交渉で中国に課している関税も香港は除外されている。ただ優遇措置廃止は難しいのではないかと見る向きもある。というのも、米国は香港と取引する物品とサービスで、330億ドル以上の貿易黒字になっており、それを捨てることはできないからだ。うやむやで終わる可能性もある。

 香港の宗主国だった英国はどう見ているのか。香港を中国に返還した際に最後の総督だったクリス・パッテン元総督は今回の騒動について、英スカイTVとのインタビューでこんなことを辛辣に語っている。

 「習近平が全ての元凶だ。習近平はこれまでとは違う独裁者だ」

 確かに、香港だけでなく、南シナ海や台湾でも問題を起こし、新疆ウイグル地区で弾圧を行い、今回の新型コロナウイルスでも独立調査を求めたオーストラリアに経済制裁をちらつかせて脅している。パッテンは返還時に英国と中国で結んだ約束を守るべきだと習近平を批判している。

 こう見ていくと、まだ香港国家安全法は賛否の混乱を引き起こしそうな気配がある。筆者の見解としては、香港国家安全法によって香港市民の動きが制限されるのは確かで賛成はできない。しかも香港がますます中国共産党のルールに支配されていけば、残念ながら香港の魅力は削がれていくだろう。

 そう考えれば、ビジネス面で香港が敬遠されることを受け入れてでも、香港市民は街頭で抗議デモを続けていくしかない。残念ながら、それでも法制化は止めるのは、米中貿易戦争で妥協するといった米国の協力なくしては難しいだろう。

 そして筆者は、昨年の「逃亡犯条約」の抗議デモから、中国政府はこうなることを見越していたのではないかとすら感じている。香港の魅力と力を削ぐことで、発展がめざましい中国の「深セン」を香港の代わりとなるハブにする。さらに、中国への入り口でもある香港において、「外国からの干渉」である欧米諸国の諜報活動・工作をきつく牽制する目的だったのではないか、と。

 香港の歴史にとっても、香港国家安全法は重要なポイントになる。注目しておいたほうがよさそうだ。

筆者プロフィール:

山田敏弘

 元MITフェロー、ジャーナリスト、ノンフィクション作家。講談社、ロイター通信社、ニューズウィーク日本版に勤務後、米マサチューセッツ工科大学(MIT)でフルブライト・フェローを経てフリーに。

 国際情勢や社会問題、サイバー安全保障を中心に国内外で取材・執筆を行い、訳書に『黒いワールドカップ』(講談社)など、著書に『ゼロデイ 米中露サイバー戦争が世界を破壊する』(文藝春秋)、『モンスター 暗躍する次のアルカイダ』(中央公論新社)、『ハリウッド検視ファイル トーマス野口の遺言』(新潮社)、『CIAスパイ養成官 キヨ・ヤマダの対日工作』(新潮社)、『サイバー戦争の今』(KKベストセラーズ)がある。テレビ・ラジオにも出演し、講演や大学での講義なども行っている。


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