コロナで京都のゲストハウス「絶滅」危機――“古都にふさわしくない”宿は駆逐されるのか京都在住の社会学者が迫真ルポ(2/5 ページ)

» 2020年06月04日 08時00分 公開
[中井治郎ITmedia]

訪日客、コロナ前の「1000分の1」の衝撃

 半年前であったなら、誰が今のこの光景を予想できただろうか。日本政府観光局の発表によると20年4月に日本を訪れた外国人客はわずか2900人。これは前年度同月の1000分の1である。つまり、まるで魔法のようにこの国から99.9%の外国人観光客が消えたのだ。

 日本を代表する観光都市・京都においても観光産業の市場は急速に拡大していた。観光消費額は6562 億円(08年)から1兆3082億円(18年)へと膨れ上がり、08年からの10年間で外国人宿泊客数は約5倍も増加していた。

photo 京都市の観光消費額の推移(「平成30年京都観光総合調査」より引用)

 しかし、京都市観光協会が5月28日に発表した市内主要ホテルの宿泊状況によると、日本人と外国人を合わせた4月の延べ宿泊客数は前年同月比95.7%の減少。近年の京都にとって4月といえば春の桜を目当てにやってくる外国人客で街が埋めつくされ、一年でいちばんの書き入れ時となるハイシーズンである。それにもかかわらず2020年4月、京都の宿泊需要は、ほぼ「消失」した。

京都ゲストハウス危機、実は「コロナ前」から

 そのような状況だからこそ、久しぶりに連絡をくれた彼から「いや、僕の勤めていたゲストハウスは潰れまして」と聞いたとき、何も疑わず「コロナだ」と思ってしまったのである。だが、よく聞けば彼のゲストハウスの閉店はコロナ禍の直前であり、その理由は家賃の高騰であるという。

 実はコロナ禍で宿泊需要が「消失」する前の19年。京都ではすでに市内のゲストハウスなど簡易宿所の廃業が過去最高のペースで急増していたのである。

 近年、京都の景色を一変させたとされるのが、巨大なインバウンド・ブームがもたらした「お宿バブル」である。11年、旅館業法によって許可されていた京都市内の宿泊施設数は878件であった。しかし、これが20年3月末時点では3993件にまで増加しているのだ。

 特に15年前後からの増加は目覚ましく、街の至るところに次々と新しい宿泊施設が乱立していくとともに地価は高騰。17年、18年の2年連続で、全国の商業地の基準地価上昇率ランキングのトップ10の半数は京都市内の地点が占めることとなった。

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