そして19年にはついに需要に対して供給が過剰となり、値崩れの傾向が見え始める。この傾向はとくに「お宿バブル」で急増したゲストハウスなど簡易宿所と呼ばれる小規模・低価格帯の宿泊施設に顕著であり、京都簡易宿所連盟が行ったアンケートでは、じつに81%の簡易宿所が19年度の売り上げは18年度比でマイナスとなったと回答している。
地価の高騰による賃料の値上がりと供給過剰のための値崩れ。さらにそこに追い打ちをかけたのが、京都市の条例によって20年4月から完全実施されることになった「駆け付け要件」である。
これは客の宿泊中は管理者駐在、小規模宿泊施設などでも800m以内の場所に管理者を配置するよう義務付けるものだ。ただでさえ利幅が減っていたところに、さらにこの人件費負担。「これにはとても耐えられない」そう判断した事業者の廃業が相次ぐことになった。
どうやら彼のゲストハウスの顛末もコロナ禍ではなく「こっち」の事情だった模様である。
そして、彼は言った。
「でも、うちはコロナの前に撤退できたので、まだ良かったのかもしれないです」
「東日本大震災も、18年の台風で関空が封鎖された時も、リピーターのお客様に支えられてなんとか乗り切りましたが、今度ばかりはどうにもなりません」
賃料の高騰や値崩れ、さらには市の条例による規制強化。すでに始まっていた逆境の中でも事業継続の道を選び、しかし、その矢先にコロナ禍に襲われることになった京都のゲストハウス。彼らがいま直面している「未曽有の危機」について話してくれたのは、京都簡易宿所連盟の副代表であるルバキュエール裕紀氏である。
年中行事のように警察が「ガサ入れ」に入ることで有名な京都大学熊野寮のすぐそばにある築110年の町家を改装したゲストハウス、「和楽庵」を営んで14年。例年であれば年間の平均客室稼働率が95%という予約困難な人気の宿である。
そんな和楽庵に新型コロナの影響が現われ始めたのは2月の初旬くらいとのこと。そして3月に入った段階でその先数カ月の予約が全てキャンセル。緊急事態宣言が明けるまでは、病院の付き添いや国に帰れなくなった外国人など「不要不急でない」客だけを受け入れることにした。そのため、この4月は客室稼働率が5%を下回るほどにまで落ち込むことになったという。
京都の緊急事態宣言は5月21日に解除され、和楽庵もテレワークのためのプランなど新しい企画で宿泊客の呼び戻しを図っている。しかし、引き続き県境を越えた移動の自粛が呼び掛けられるなど社会全体で第二波の感染拡大を警戒する風潮のなか、「声を大にして、旅行に来てください!とはなかなか言えない」という歯がゆい状況はまだまだ続く見込みであり、5月の客室稼働率も8%程度にとどまるという。
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