コロナで京都のゲストハウス「絶滅」危機――“古都にふさわしくない”宿は駆逐されるのか京都在住の社会学者が迫真ルポ(4/5 ページ)

» 2020年06月04日 08時00分 公開
[中井治郎ITmedia]

「大半が休業状態」な京都のゲストハウス

 現在、京都のゲストハウスは「大半が休業しているような状態」であるという。しかし復興への道筋を考える際、今回の危機が感染症によってもたらされたものであるという点が今後、本質的な問題として立ち上がってくることになるだろう。それは、ゲストハウスの特徴である「共有」というスタイルにかかわるものである。

photo 本記事の著者・中井治郎氏は京都在住の社会学者。1977年、大阪府生まれ。龍谷大学大学院博士課程修了。今は同大学などで教鞭をとる。専攻は観光社会学。主な著書に、許容量を超える観光客の殺到で苦しむ京都の「オーバーツーリズム」を分析した『パンクする京都 オーバーツーリズムと戦う観光都市』(星海社新書)。

 ホテル、旅館、そして近年に急増した民泊や一棟貸し。さまざまな宿泊施設のタイプがある中でも、ゲストハウスはとくに共有部分が多いことが特徴だ。部屋を共有するドミトリー(相部屋)、共有のトイレやバスなどの水回り、そして客同士が時間を共有してお互いの交流を促すスペースの存在もまたゲストハウスの名物である。

 厚生労働省が発表した「新しい生活様式」が話題を集めたが、これは人間同士の身体的距離をとることで接触を減らすことを主眼としたものであった。京都の花街でも芸妓・舞妓がお茶屋で接客する際のガイドラインを策定するなど、さまざまな業界がこの「新しい生活様式」の指針を踏まえて新しい業務やサービス提供の在り方を模索している。

 観光の在り方、とくに新しい「宿」の在り方を考えた場合、さまざまな種類の宿泊施設の中でも、そのスタイルをもっとも根本から変えることを求められるのは、先述のような共有部分の多さを特徴とするゲストハウスなのではないだろうか。

「ゲストハウス文化」捉え直す

 このような京都のゲストハウスの窮状を見かねたリピーターやファンたちの声を受けて京都簡易宿所連盟はクラウドファンディング「新型コロナから京都のゲストハウスを守りたい」を立ち上げ、終了までの1カ月間で目標額の200万円を大幅に上回る300万円を集めることに成功する。この企画のコンセプトで特に印象的だったのが「ゲストハウス文化」というキーワードだ。

 京都に暮らすように旅することができる。地域と旅行客をつなぐハブとなることができる。そして、間取りから大きく手を入れて改装してしまう飲食店などと違って、京都に残された町家や古民家を最も「そのまま」使うことのできるテナントとしての意義。

 これらの視点から、ゲストハウスを単なる小規模な宿泊施設であることにとどまらない固有の「宿」文化として捉え直すコンセプトである。言い換えるならば、「ゲストハウスらしさとは何か?」を再提示する試みでもある。

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