2020年5月19日、JR九州は公式サイトで「弊社分譲済案件における杭工事不具合について」という短文の書面を公開した。1995年に竣工引き渡しを実施した分譲マンションで、杭工事に不具合があったという。25年前の案件で今ごろおわびとはなんだ。気になって調べたら、とんでもない瑕疵(かし)事件だった。JR九州ブランド失墜の危機だ。
九州に住む人々にとってJR九州といえば鉄道事業者だ。その象徴的な存在は日本初のクルーズトレイン「ななつ星in九州」をはじめとする観光列車群である。テレビの旅行番組などで何度も紹介されてきたから、九州以外の人々にとって「九州の鉄道は楽しそう」というイメージだと思う。私たち鉄道ファンや旅行好きにとっても鉄道事業者である。
一方で、政治的、経済的な視点で見ると、JR九州は「副業の優等生」であり「奇跡の三島会社」である。33年前、大赤字の国鉄を分割民営化するときに、JR九州、JR四国、JR北海道は「自社努力だけでは黒字化できない」と予想された。そこで経営安定化基金を授けられ、その金利で赤字を埋める枠組みを作った。その中で、JR九州は積極的に異業種に進出した。マンション建設、コンビニ、ドラッグストア、飲食店などだ。
JR九州はこれら子会社の健闘が評価され、鉄道事業が赤字にもかかわらず東証一部上場を果たした。鉄道事業は2016年から黒字化されているけれども、これは上場にあたって経営安定化基金を組み入れたからだ。九州新幹線の20年分の使用料として繰り上げて支払ったほか、固定資産を圧縮して減価償却費を減らすなどで大幅にコストを削減した。
鉄道事業の実態としては、在来線区間のほとんどが赤字。5月27日には特に乗客が少ない12路線17区間を公表し、路線維持に向けて沿線自治体と協議する意向を示した。同日、熊本地震で被災し不通となっていた豊肥本線肥後大津〜阿蘇間を8月8日に運転再開すると発表。一方でその前日には、日田彦山線の不通区間についてBRT(バス高速輸送システム)転換の見通しが立った。17年7月の豪雨で不通になる以前から利用客数が少ない区間だった。
JR九州が路線の救命を選択する。それは経営努力である。経営努力は多角経営にも発揮された。JR九州の営業収益の構成比は、19年3月期連結ベースで、運輸サービスが40%、不動産・ホテルが19%、建設が8%、流通・外食が24%となった。営業利益では不動産・ホテルが39%となり、運輸サービスの42%に迫る。
JR九州はもはや不動産業、と揶揄(やゆ)される。これは褒め言葉だ。例えば大手私鉄の東急グループの売上高構成比において、交通事業は17.5%にすぎない。不動産事業、ホテルリゾート事業の合計は24.9%になる。東急グループは流通など生活サービス事業が57.6%に上る。JR九州は大手私鉄のセオリーをたどり、鉄道事業者から地域生活事業へコマを進めている。
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