副業の優等生、JR九州が放置した「傾斜マンション」の罪杉山淳一の「週刊鉄道経済」(5/6 ページ)

» 2020年06月05日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

マンションも鉄道も監督官庁は国土交通省

 さて、ここまではマンション問題だ。JR九州の副業のやらかしにすぎない。しかし、JR九州がこの事態を知りつつ、25年も謝罪に応じなかったことは罪深い。なぜなら、JR九州はその後、自社ブランドマンション「MJR」シリーズで大成功を収め、これらの実績を踏まえて、2016年に東証一部に上場して完全民営化を果たしている。欠陥マンションを放置しながら。

JR九州のマンションブランド「MJR」のサイトより。「JR九州」の信頼性をアピール

 国土交通省はJR九州の完全民営化に着手し、15年に「旅客鉄道株式会社及び日本貨物鉄道株式会社に関する法律」を改正してJR九州を対象から除外した。JR九州の完全民営化は国のプロジェクトだ。副業による経営安定化を評価して完全民営化を良しとした。しかしその副業で、ベルヴィ香椎六番館の問題は考慮されていなかったか。考慮されたとしても差し支えないと判断したか、あるいは知らなかったか。

 国交省がJR九州の副業で問題を抱えていることを知らなかったでは済まない。なぜなら、マンション建設に関連する企業の監督官庁もまた国交省だからである。1995年当時の建設事業の管轄は建設省で、鉄道は運輸省だった。だからといって、2016年に「組織が縦割りだったから」という言い訳はきかない。むしろ、一体となった国交省だからこそ、JR九州を総合的に評価できたはずではないか。

 ちなみに、国交省は05年に民間確認検査機関イーホームズと一級建築士の構造計算書偽造問題を公表した。いわゆる「姉歯事件」は国中が騒乱した。国会で証人喚問まで行われている。このさなか、ベルヴィ香椎問題は発生から10年も経過したまま放置されている。

 マンション問題といえば、07年に完成した「パークシティLaLa横浜」も15年に建物の傾き問題が明るみに出た。虚偽データに基づいた工事が行われ、複数の杭が強固な地盤に届いていなかった。国交省は同年10月に「基礎ぐい工事問題に関する対策委員会」を設置し、有識者会議の中間とりまとめ報告書をとりまとめた。ベルヴィ香椎六番館も傾いていたわけだが。

 パークシティLaLa横浜は16年に全戸建て替えが決定した。解体・建て替え工事費用は約300億円、住民に対する待機住戸などの補償で約100億円、合計400億円で住民と合意し、20年に完成予定だ。ただし、18年に事業主が施工会社3社を相手取り、総額459億円の訴訟を起こしている。

 これを知ったベルヴィ香椎の住民たちはどんな思いだっただろうか。JR九州、福岡商事、若築建設、九鉄工業の関係者もこの事件はご存じだろう。なぜ知らぬ振りができたのか。

 もう一つ、東京証券取引所の審査も気になる。上場検査基準はとても厳しい。日本取引所グループで公開されている「上場審査の内容」には、事業の健全性もある。個々の商取引について問う事項はないとはいえ、ベルヴィ香椎六番館は「事業の健全性」を問われる。この問題を解決し、不動産事業の健全性を盤石にすべきだった。

上場審査の内容(出典:日本取引所グループ

Copyright © ITmedia, Inc. All Rights Reserved.