ビジネスのあらゆる領域でAI(人工知能)の導入が進んでいるが、人事の世界も例外ではない。既存社員の管理から、新卒採用の効率化、離職防止に至るまで、さまざまな活用が生まれている。人が人を管理する時代から、機械が人を管理する時代へと変わりつつあるわけだ。
そう書くと、映画「ターミネーター」のような世界が訪れた、と感じられるかもしれないが、実際には人間側も歓迎しているようだ。米国Oracleが2019年に10カ国8370人の従業員、マネジャー、人事部門トップを対象に行ったアンケート調査によれば、64%が「人間のマネジャーよりもロボットを信頼する」と答えている。
その価値が認められる一方で、人事分野でのAI活用では、差別やプライバシーの侵害といった新たな問題も生まれている。同じアンケートの結果によれば、人事部門トップの81%が「職場での技術的変化に追い付くのが難しい」と答えている。AIは人事にどのような価値を提供し、逆にどのような問題をもたらしているのか、詳しく見ていこう。
まず、新しい社員を採用するところから紹介していこう。新卒採用であれ経験者採用であれ、自社にとって望ましい人材を選別し、適切な待遇で迎え入れるというのは負担の大きい作業だ。実務部門の社員にも協力してもらい、何度も面接を重ねながら、ようやく「この人であれば」という人物に内定を出す。しかし評価の高い人物であればあるほど、出した内定を断られることも多い。
ならばAIの助けを借りて、候補者の選考を効率的に進めようという発想が出てくるのは当然のことだ。そうした企業の声に応えるように、さまざまなアプリケーションやサービスが現実のものになっている。
例えばニューヨークに拠点を置くFetcherという企業が開発したプラットフォームでは、顧客企業から提要された職務記述書(ジョブ・ディスクリプション)をAIが解析し、応募者から送られてきたメールや書類と比較して適切な候補者を選んでくれる。そこから先は人間が選考を進める必要があるが、応募が大量にあった場合などは、候補者の絞り込みにかかる時間と負担を大きく削減してくれる。
同じく米国のParadoxが開発しているのは、AIを活用したチャットbot(テキストによるチャットで人間とコミュニケーションするアプリケーション)だ。このチャットbotは、応募者からの質問に自動的に答えることができ、応募者は24時間いつでも採用プロセスに関する疑問を解決できる。利用企業は、後からどのようなやりとりがなされたかを確認することも可能だ。
こうしたAIツールは、もちろん採用の効率化をもたらしてくれるが、他にも「これまで見落としていた(自社にとって)適切な人材を早期に把握する」や「担当者による評価のバラつきを抑制できる」といった効果がある。候補者にとっても、選考プロセスが長々と続くことを回避でき、自分の才能を適正に判断してくれる確率が高まるといったメリットがある。
一方で近年、採用活動におけるAI活用では、そのマイナス面を印象付けるような事件が続いている。その一つは、おなじみIT大手のAmazon.comが起こしたものだ。18年、同社が採用活動時に使用していた「応募者の履歴書を自動で審査する」というAIが、女性を不当に低く評価していたことが明らかになった。
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