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窓口対応で土下座まで……「カスハラ」対策、“理不尽なおもてなし”から解放されるか河合薫の「社会を蝕む“ジジイの壁”」(2/4 ページ)

» 2020年06月12日 07時00分 公開
[河合薫ITmedia]

「怒られることはあっても、感謝されることはない」

 ……ふむ。まぁ、こんなことは国から指針がでなくても「やっとけ!」とも思いますが、時代はかなり前から「カスタマーオリエンティッド」。きちんと明確な指針が出されたことは、大きな前進です。

 なんせ教師や医師たちが、「怒られることはあっても、感謝されることはない」と嘆き、市役所や県庁の防災担当の職員の方たちが、「警報を出したら出したで怒られ、出さなきゃ出さないで怒鳴られる」と大雨の度に苦悩するほど、世の中はすさんでいるのです。

 もっとも、やたらに「うちのサービスは最高です!」「お客さまの満足度100%です!」などと、サービスを売りにする行政や企業も問題です。「サービスにはカネがかかる」のに、そのことを無視し、働く人たちの裁量に全てを押し付けているのですから、たまったもんじゃない。

 とにもかくにも、「感情労働」にはカネがかかるという認識が社会全体に極めて乏しく、「おもてなし」という言葉も、ある意味、サービスする側の自己犠牲で成立してしまっていること自体、見直す時期に来ているように思います。

感情労働にはカネがかかるという認識が乏しい

 「感情労働(emotional labor)」という概念を最初に提唱したのは、米国の社会学者のアーリー・ホックシールドです。1970年代、ホックシールドは客室乗務員たちの労働状況を分析し、「彼女たちは自分の仕事を愛し、『楽しんでいる』ように働き、乗客も『楽しかった』とフライトを満喫するように努めることが、彼女たちの仕事の生産物となっている」とし、“感情”を自分から分離させ、感情それ自体をサービスの一部にする、感情労働という言葉を生み出しました。

 感情労働では、たえず相手の要求や主張、クレームを受け止め、たとえそれが理不尽なものでも、自己の感情を押し殺し、穏便かつ的確なサービスを提供しなければなりません。そこでホックシールドは、「“感情の疲労”は、単に体を休めただけでは回復しない。企業は徹底したケアを感情労働者たちにすべき」と訴えました。

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