認識のズレはどこで起きた? JR東海社長と静岡県知事の「リニアトップ面談」にツッコミを入れる【後編】杉山淳一の「週刊鉄道経済」(4/5 ページ)

» 2020年07月04日 07時00分 公開
[杉山淳一ITmedia]

 これはおそらく、金子社長の覚悟をただす意図だったと思う。面談の時間も超過し、締めくくりをキメたかったかもしれない。しかし、この問いに答えるには金子社長は実直すぎた。「仮にという話は難しい。有識者会議で幅広い議論をしてもらいたい。最終的には大井川の水を使っている方々が困らないようにするほうが大切」と説明した。

 ここで「できなければやめる。しかし、解決できると信じている。なぜなら私たちは運命共同体でしょう。リニアへの思いが同じなら一緒に頑張っていただけませんか」と相手を巻き込む回答がカッコよかった。もっとも、やめると口に出せば言質を取られるリスクもある。川勝知事の質問はかなりひどい。問題解決を放棄しているように思える。

 川勝知事はしつこく「できなかったらどうする」と問い続ける。もちろん川勝知事には守るべき水と、生態系と、南アルプスの景観がある。しかし、ここにきて「できなかったら」という問いは不誠実だ。一滴たりともという議論を蒸し返すなら、「全量」の再定義から始める必要がある。物理的に流れる水の全量か、大井川流域10市町が得られるべき「全量」か。これはもう政治的な判断になる。

 静岡県側はたびたびこのような議論をふっかける。だからちゃぶ台返しだのゴールポストが動くだのと批判を受ける。金子社長は冷静に回答を避け、有識者会議には前向きな議論に期待していると述べるにとどまった。川勝知事は追及を諦めたようだ。覚悟を問うだけが目的だったら稚拙だし、本気で問うているなら「リニアに反対ではない」「運命共同体」という言葉の真意を問いただしたい。

工事の定義が曖昧のまま……

[1:14:45] 工事の定義が曖昧のまま……

 さて、川勝知事は国交省に対する批判を始める中で、金子社長は本題に戻そうと必死だ。「知事とやりとげたい。ポジティブな気持ちで前に進みたい」。ここで一瞬、川勝知事の「はい分かりました」の相づちが入る。続いて、金子社長が「今日はヤードの話がご了解いただけなくて残念ですが……」。すると、川勝知事はあっさりと「条例にかければ良い話ですから」。

 これには金子社長もやや驚き「条例が通ればいいんでしょうか」。川勝知事「もちろんです。条例では専門部会できちんとやりますから、私は1ヘクタールでも許可を出せる。しかし5ヘクタール以上になれば……」

 さらに、工事の定義にも言及した。川勝知事は「われわれは本体工事とは別で、活動拠点工事と言っている」。これに金子社長も拍子抜けのようで、「条例は大切で、条文には常識的な事柄が書かれている。この件は専門家会議、その次の有識者会議で検討される話とは別という理解ですが……(よろしいのでしょうかという含み)」

 これに対して川勝知事は、5ヘクタールの自然環境保全協定の説明を繰り返す。「昭和48年から一貫してそういう流れになっている」。そこで、金子社長が「実務的にお伺いしたらいいということか」と念を押す。川勝知事は「そうですね」と応じる。続いて「地質調査も、山梨でボーリング調査をやって、静岡ではやってない。それでは静岡の地質が分かっているかどうか。地質を見つけるためにはボーリング、そのための平地作り、そういうのはどうぞやってください」と続けた。「トンネル工事本体と別個のものであれば、一つ一つ納得の上でいけば、アタマからNOとか、行けという話ではない」

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